《作曲》
当時、ピーター・アッシャーをはじめ多くの人がノルウェー産の木材(Norwegian wood)で部屋に内装を施していたのをモチーフとして加えたことで(Drive My Carと同様に)曲が自ずから完成に向かって行った。この証言から大きく逸脱している日本語タイトル「ノルウェーの森」はタイトル史上最も有名な誤訳となってしまった。

65年2月、ジョンがシンシアやマーティン夫妻とスイスにスキー旅行に行った際に書き始め、帰国後にポールと仕上げている。
歌詞はジョンの情事を基にしているが、シンシアに気付かれないよう煙幕(情事が無いままに悔しい思いをしたとも解釈できる詩になっている)を張って創られている。
ポールは歌詞を完成させ、ミドルエイト(サビ)を追加している。更に、最後に火を点けたのは暖まるためではなく、風呂で寝させられたことに対する仕返しにノルウェー産の木材(Norwegian wood)を燃やした(つまり暖炉に火を灯したのではなく部屋に放火したという猟奇的な意味も含んでいる)と語っている。

イントロには曲のイメージを支配しているジョージのシタールが加わっている。これはジョンのリクエストに依るものだが、ジョージはシタールを入手したばかりで未だラヴィ・シャンカールに教わる前の独学状態でメロディーをなぞっている。
またレコーディング技術者にとってもシタールは初めてで、音量のピークが西洋楽器とは異なるという音響特徴に苦労している。

当初は‘This Bird Has Flown’というタイトルであったが、レコーディング途中(第3テイク前)にエンジニアのノーマン・スミスが"This Bird Has ... er er ... Norwegian Wood take three"とコールした事をキッカケにタイトルが変更される。

《録音・構成》
通常12/8拍子で記譜されるが、ジョンにとってはワルツ(3拍子)のリズムという認識であるため、演奏開始時は"one two three one two three"とカウントしている。

ANTHOLOGY2に収録されているテイク1で確認できる通り、当初はキーDで12弦のアコースティック・ギターをメインにしたアレンジで、ジョージのシタールを加えて一旦は完成となる。

第1テイク

Dコードを軸にメロディーを加えながら演奏するのはアコースティックギター奏法の定番である。後の多くの曲で使用されるようになる奏法だが、ビートルズとして先陣を切ったのはジョンだった。
ANTHOLOGY2とは別の音像バージョンも存在しており、以下のような構成と考えられる。
トラック1リンゴのドラムス(シンバル、キック)
トラック2ジョンの12弦アコースティック・ギター
トラック3ジョンのボーカル、ポールのハーモニー
トラック4ジョンとポールのセカンド・ボーカル、ポールのベース、ジョージのシタール、リンゴのパーカッション(タンバリン、マラカス、フィンガー・シンバル)

既にジョンとポールのボーカルはダブルトラックになっており、各種楽器も追加されて完成した状態である。
ベースやシタールと共に入っているボーカルはAメロの最終行とサビをダブルトラックにしている事から、最後に追加録音されたものと思われる。

ところがジョンの目指すサウンドでは無かったらしく9日後にはキーを上げて再録音している。
メロディーを弾いていた12弦ギターは6弦ギターに変更し、ジョージのシタールもダブルトラックにしている。逆にボーカルのダブルトラックは不要と判断されてシングルトラックとするのが基本方針となる。

第2テイク

サビのメロディをシタールで奏でたイントロから始まる。
トラック1リンゴのパーカッション、ポールのベース、ジョージのシタール、ジョンのアコースティック・ギター
トラック2ジョージのシタール
トラック3ジョンのボーカル、ポールのハーモニー(サビのみ)
トラック4ジョンのハーモニー、ジョージのシタール

ジョージのシタールがメインとなり、ジョンは最後のAメロでハーモニーを加えている。

次に、バッキング用のシタールはシタール用のトラックにまとめて、ベーシック・トラックからは分離される。

第3テイク

ルイソン氏は「第3テイクはアコースティックギター2台とベースとジョンとポールのボーカル、第4テイクは第3テイクの構成にシタールを追加したバージョン」と記している。
恐らく、第2テイクのベーシック・トラックからジョージのシタールを除いた演奏が録音されたと考えられる。
トラック1リンゴのパーカッション、ポールのベース、ジョンのアコースティック・ギター
トラック2(空き)
トラック3ジョンのボーカル、ポールのハーモニー(サビのみ)
トラック4(空き)


最終的にポールのベースも分離してジョンのアコースティック・ギターがバッキングのメインとなる。ベーシック・トラックでのポールはボーカルのみの参加となったためか、サビで手拍子を加えている。
注:タンバリンとフィンガー・シンバルの判別は困難

トラック1リンゴのパーカッション(キック、フィンガー・シンバル、等)、ジョンのアコースティック・ギター
トラック2(空き)
トラック3ジョンのボーカル、ポールのハーモニー(サビのみ)と手拍子
トラック4(空き)


シタールは最終的にダブルトラックとなっているが、その録音の難しさからひとつは単独のトラックに録音されている。

トラック2ジョージのシタール、咳払い、話し声


最後にポールのベース、ジョンの12弦アコースティックギター、ダブルトラック用のシタールが録音されている。ここでの12弦アコースティックギターはバッキングに徹した演奏で、3弦と4弦の各々に1オクターブ差の弦が張られていることを利用した演奏になっている。

トラック4ポールのベース、ジョンの12弦アコースティックギター、ジョージのダブルトラック用シタール


《ミキシング》
65年ステレオ・バージョンでは各トラックを左右に振り分けていたが、CDバージョンではイントロだけ右側を中央に寄せている。
70年代の編集盤『LOVE SONGS』ではボーカル(本来は右)をセンターに、演奏(同左)をセンター左に寄せているが、これは65年ステレオ・バージョンを加工したものである。

最大のミックス違いはシタール用トラックの合間に入っていた様々なノイズの扱いである。レコード(モノ&ステレオ)では0'28"(“isn't it good”の直後、1拍目裏)にシタールを動かしたらしい“カタッ”という音が、更にモノ・レコードでは、0'37"〜0'38"(“sit anywhere”の直後から“so I looked”の直前にかけて)の咳払い(補足音源1)と1'19"(“(she) told me”の個所)での喋り声(補足音源2)が入っている。
ビートルズのメンバーがミキシングに積極的に参加するようになると面白がってこれらのノイズを利用するようになったらしく、余りにも有名なノイズであるためリマスターの際にも咳払いは必要な音として完全には除去しないで残している。

なお、CDバージョンでは1'59"でタンバリン(あるいはフィンガー・シンバル)の残響が聴こえている(補足音源3)。一緒に録音されているアコースティック・ギターはフェードアウトしていないので65年当時はEQ操作で高域を落としていると思われるが、CD用のリミックス時にはすっかり忘れられていたようだ。

補足音源1:0'38"の咳払い
左がモノ・バージョン、右が60年代ステレオ・バージョン。
左側(モノ側)は咳払いが入っている。小さい方の咳払いをカットしつつも目立つ咳払いを残しているのはマニア対策なのだろうか。

補足音源2:1'20"の話し声
左がモノ・バージョン、右が60年代ステレオ・バージョン。
左側(モノ側)は話し声が入っている。

補足音源3:エンディング後のタンバリン
左がCDバージョン、右が60年代ステレオ・バージョン。
左側(CD側)はエンディング後にタンバリンを振る音が大きく入っている。
【レコーディング・セッション履歴】
65/10/12ジョージ・マーティンノーマン・スミス
ケン・スコット
Recording 第1テイク、仮題"This Bird Has Flown"、ジョンのボーカルはダブルトラック、シタールはジョージ、ポールはバックボーカル、リンゴはフィンガーシンバル・タンバリン・マラカス
クロニクルによるとシタールもダブルトラック
65/10/21ジョージ・マーティンノーマン・スミス
ケン・スコット
Recording リメイクで第2〜4テイク、第4テイクがベスト、第2テイクはシタールのイントロ&ベースとドラムス無しバージョン、第3テイクはアコースティックギター2台とベースとジョンとポールのボーカル、第4テイクは第3テイクの構成にシタールを追加したバージョン
65/10/25ジョージ・マーティンノーマン・スミス
ケン・スコット
Mono Mixing 第4テイクより
65/10/26ジョージ・マーティンノーマン・スミス
ロン・ペンダー
Stereo Mixing 第4テイクより