日本人のためのドイツ語学習法 | |
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~~~ Eine Methode zum Deutschlernen für Japaner:innen ~~~ | |
動詞の位置を示す用語として、V1(文頭)、V2(2番目)、VEnd(文末)がありますが、VEndと英語のSVOを対比させるため本解説ではSOVと記します。
以下を念頭に学習を始めないと至る所で誤解します。1. 文の基本構造
主となる動詞の位置が変わりますが、英語式ではありません。
・主節【主語+主動詞+目的語+動詞句】, 従属節【接続詞+主語+目的語+動詞句(主動詞を含む)】.
・従属節【接続詞+主語+目的語+動詞句(主動詞を含む)】, 主節【主動詞+主語+目的語+動詞句】.
従属節は日本語と同じ語順です。2. てにをは
主語と目的語は以下の名詞句に、日本語の「てにをは」のような語尾変化を付けて区別します。
冠詞+形容詞1+形容詞2+…+名詞 語尾変化は先頭の単語が優先で、形容詞には弱変化/混合変化という簡略形があります。読む勉強より話す勉強の方が遥かに理解が進みます。とは言え、ドイツ語で考えるなんて行き成りはできません。大半の日本人が行うであろう「言いたい事を日本語で考えてからドイツ語の文を作る」手順を示します。 日本語⇒ドイツ語の手順(全体像)
細部はスルーして全体像を掴んでください。文の構成要素 ※ 接続詞は「文をつなぐ語」として別枠
機能(役割) 構造(実際の形) 備考 主語 名詞句 冠詞+形容詞+名詞 目的語 修飾語 副詞句 / 前置詞句 副詞 / 前置詞+名詞句 述語 動詞句 動詞+助動詞
※ 形容詞と副詞は同形で、動詞にかかる形容詞が副詞
※ 動詞に冠詞dasを付けたら動名詞(中性名詞)
例文1:「私はカフェで友だちと昨日コーヒーを飲みました。」
これを以下のステップでドイツ語にしてみます。
※ ポイントは「動詞が1語移動」しただけ
工程 変更後 補足 TeMoLo 私は昨日友だちとカフェでコーヒーを飲みました。 ドイツ語らしい並び順にします。
時間(Te)→様態(Mo)→場所(Lo)分解 私は、昨日、友だちと、カフェで、コーヒーを、飲み、ました。 動詞は意味(飲み)と時制(ました)に分けます V2 私は、ました、昨日、友だちと、カフェで、コーヒーを、飲み。 動詞を2番目に移動します 単語を置換 ich、habe、gestern、mit einem Freund、im Café、Kaffee、getrunken。 完成 Ich habe gestern mit einem Freund im Café Kaffee getrunken.
同じ要領で従属節つきの文を作ってみます。
例文2:「雨が降っていたので、私はカフェで友だちとコーヒーを飲みました。」
※ ポイントは「従属節の語順は日本語と同じ」!
工程 変更後の主文 変更後の従属節 主従の分離 私はカフェで友だちとコーヒーを飲みました。 なぜなら雨が降っていた TeMoLo 私は友だちとカフェでコーヒーを飲みました。 なぜなら雨が降っていた 分解 私は、友だちと、カフェで、コーヒーを、飲み、ました。 なぜなら、雨が、降って、いた V2 私は、ました、友だちと、カフェで、コーヒーを、飲み。 なぜなら、雨が、降って、いた
※動詞が移動しない!単語を置換 ich、habe、mit einem Freund、im Café、Kaffee、getrunken。 weil、es、geregnet、hat Ich habe mit einem Freund im Café Kaffee getrunken, weil es geregnet hat.
会話の前に知っておく事 【Rが発音できない日本人】
昔からLとRの発音問題は日本人を悩ませています。
ローマ字のラ行(RA RI RU RE RO)はRを使って記述するので日本人が発音できないのはLと思いがちですが、実際に発音しているラ行はLに近いので「RとLの発音を区別できない」という現象に落ち入ってしまうのです。
Rはヨーロッパ全土でも違うためより一層複雑になるのですが、最古は巻き舌のRであり、それが広まったと理解すれば全体像を掴みやすいです。
その後、300~400年前にパリで流行した喉で出すRがフランスとドイツを席巻して標準ドイツ語となり、英語にも影響を与えました。ただし、南ドイツでは巻き舌のRが現在でも主流な発音として残っています。
この3言語は語中や語末のRが母音化あるいは消失しがちで、今もなお発音が変化し続けています。
注:【グリムの法則】とは兄ヤーコプの業績として広く知られている言語学の法則のひとつです。
- 巻き舌 [r](歯茎ふるえ音)
スペイン語・イタリア語では舌先を上の歯茎に軽く当て、息で震わせる。日本語の「ラ行」の強い trill に近い。- 歯茎接近音 [ɹ]
英語(標準的なアメリカ英語・イギリス英語)は舌先を上の歯茎に近づけるが震わせない。日本人が「ウ」の口の形で「ラ」を言うと近い音。- 口蓋垂摩擦音 / 接近音 [ʁ]
フランス語・標準ドイツ語は舌の奥(喉側)を持ち上げ、口蓋垂に近づけ、摩擦音や近接音を出す。震えはほとんどない。【カタカナ語を直すには】
日本人は子音だけを発音することができません。
英語のstreetは「ストリート」になります。
ドイツ語(Straße)なら「シュトラーセ」です。
この恥ずかしさには自覚があるため、多くの日本人は会話どころか発声することすらためらいます。これが英会話をできない本質であって、小学校から始めれば何とかなるという問題ではないと思います。
何故そのような発音になるのか分からないまま「違う」と指摘しても意味がありません(本人も自覚はしているのです)。幼児に教えるのと同じで「ダメ」ではなく「方法」を教えなければいけませんが、残念ながら外国人教師を筆頭に「正しく発音できる人」が「なぜできないのか」という問題に気付くのは難しいでしょう。
s
日本語には5つの母音(あいうえお)がありますが、子音だけを必要とする単語はありません。
そのため多くの日本人は子音を発音する時に母音のどれかを使います。たとえば"サ(sa)"と発音する時には、"s"の口の形を作ってから"あ(a)"と発声します。"s"と"a"はほぼ同時に発声されます。
一方のヨーロッパ言語では"s"と"a"を順番に発声します。
日本人に必要なのは「息を出すだけ」の6番目の母音(の代わり)です。
それでも気を付けないと「s t リー t」となってしまい、「子音+母音」の箇所は日本語の発声を使ってしまいます。先ずはゆっくりと子音と母音を分離して「s t r イー t」と発音練習する事から始めるべきでしょう。
ドイツ語は特にüとかöのような子音と一緒には出せない母音があるので尚更です。
【子音の母音化】
ヨーロッパ言語では子音の母音化、あるいは母音的弱化が起こることで言語が変化しています。
英語の方が子音の母音化が多様で進んでおり、ドイツ語は比較的保守的です
子音 英語 ドイツ語 R non-rhotic 方言(イギリス南部など):語末・子音前の r が消失し、前の母音が長化 (car [kɑː])。
rhotic 方言(米語など):[ɹ] が残るが、弱い母音的要素として [ɚ](schwa+r)になる (teacher [ˈtiːtʃɚ])。語末 -er が [ɐ] という母音化した音に変化 (besser [ˈbɛsɐ])。
口蓋化・母音化が体系的。L light L [l](母音前)と dark L [ɫ](母音後)が区別される。
一部方言では dark L が母音化して [w] や [o]/[ʊ]-的になる(例: milk → [mɪʊk])。基本的に [l] のまま残るが、バイエルン方言などで -l が [i]-的に弱化する場合あり。 鼻音 (m, n) 語末 -ng は完全な [ŋ] ではなく、前母音を鼻化させるように響く (sing [sɪ̃ŋ])。
ただしフランス語ほどの体系的鼻母音はない。同様に [ŋ] が母音と一体化して鼻母音的に聞こえる (singen [ˈzɪŋən])。
しかし独立した鼻母音は形成しない。半母音 (j, w) [j] と [w] はすでに半母音で、実質的に母音 [i], [u] に近い (yes, we = [jɛs], [wiː])。 [j] は ja [ja] のように [i] に近い。
[w] は消失し、[v] に変化(母音化ではなく子音化した方向)。h 語中・語尾では脱落しやすく、母音だけ残る (honest [ˈɒnɪst])。 語頭の h は有声化しないが保持される (Haus [haʊ̯s])。
語中では母音を長くする記号的役割(sehen [ˈzeːən])。【綴りと発音ルール 】
ドイツ語は基本的に綴りと発音が規則的(ほぼローマ字読み)に対応していますが、いくつか「特殊ルール」や「例外的な組み合わせ」があります。
ウムラウト(ü,ö)の発音は馴染みがないので(äはe(え)と同じでもOK)、まずは日本語のa,i,u,e,o(あいうえお)が図のような位置で発声している感覚を確認してください。
ここで、い-う-い-う…と交互に発声して、途中でうの口の形をキープしたままい-う-い-う…と続けると、いの音がüとなっています。
同様に、え-お-え-お…と交互に発声して、途中でおの口の形をキープしたまま発声を続けると、えの音がöとなります。
注:外来語(特に英語とフランス語)はこれらの対象外で、原語の発音になる場合が多いです。
- 子音の特殊ルール
綴り 発音 説明・ルール 例 ch [ç] / [x] 前舌母音 (i, e, ä, ö, ü) の後で [ç]、後舌母音 (a, o, u, au) の後で[x] ich [ɪç], Buch [buːx] sch [ʃ] 常に「シュ」音 Schule [ˈʃuːlə] sp / st (語頭) [ʃp] / [ʃt] 語頭ではシュ音+子音 Sport [ʃpɔrt], Stein [ʃtaɪn] -ig(語尾) [ɪç] / [ɪk] 標準は [ɪç](ヒ)、口語では [ɪk] König [ˈkøːnɪç] chs [ks] x と同じ音になる Fuchs [fʊks] z [ts] 常に「ツ」音 Zeit [tsaɪt] s [z] / [s] 語頭母音前は [z]、語末・子音前は [s] Sonne [ˈzɔnə], Haus [haʊs] ß [s] 長母音の後で強い [s] Straße [ˈʃtraːsə] b(語末) [p] 語末では清音化する ab [ap] g(語末) [k] 語末では清音化する Tag [taːk] - 母音・二重母音の特殊ルール
綴り 発音 説明・ルール 例 ei / ai [aɪ] 「アイ」と読む mein [maɪn], Mai [maɪ] eu / äu [ɔɪ] 「オイ」と読む neu [nɔɪ], Träume [ˈtrɔɪmə] ie [iː] 長いイ音 Liebe [ˈliːbə] e(語末 -e) [ə] 曖昧母音(弱いエ) Mitte [ˈmɪtə] ä [ɛ] 多くの場合 e と同音 Käse [ˈkɛːzə] ö [ø]/[œ] 丸めたエ音 schön [ʃøːn] ü [y]/[ʏ] 丸めたイ音 müde [ˈmyːdə] au [aʊ] アウ Haus [haʊs] - その他
綴り 発音 説明・ルール 例 qu [kv] クヴ Quelle [ˈkvɛlə] ph [f] 外来語のみ Philosophie [filozoˈfiː] v [f] / [v] 固有語では [f]、外来語では [v] Vater [ˈfaːtɐ], Video [ˈviːdeo] w [v] 常にヴ音 Wasser [ˈvasɐ] j [j] ヤ行音 ja [ja], jung [jʊŋ] h(母音の後) (無音・母音を長く) 発音せず母音を長音化 sehen [ˈzeːən]
名詞句 名詞句を主語や目的語として使い分ける文法が「名詞句の屈折」です。
日本語の「(名詞+)てにをは」に相当するのが「格」ですが、ドイツ語ではこれが「名詞の性と数」で変化します。
【格の種類(8格 ⇒ 4格&前置詞句)】
印欧祖語の8格と現代ドイツ語(ゲルマン祖語以降)の4格を対応表としてまとめます。
格体系の変遷 ポイント:現代ドイツ語の4格(主・対・属・与)は印欧祖語の8格のうち4つを直接継承し、具格・奪格・位格は与格が前置詞句として吸収(「in+与格 = 場所」、「von+与格 = 起点」、「mit+与格 = 手段」の由来)、呼格は主格が吸収している。
印欧祖語の格 機能(例) ドイツ語 主格
(Nominativus)文の主語を表す。
例: 「父が来る」。1格
主語呼格
(Vocativus)呼びかけ。
例: 「おお、父よ!」。↑ 属格
(Genitivus)(※)所属・起源・関係。
例: 「父の家」。2格 与格
(Dativus)「~に向かって」、「~に属する」など、目標・対象を表す。
例: 「息子に与える」。3格
間接目的語具格
(Instrumentalis)手段・方法・共同。
例: 「剣で戦う」、「友と共に」。前置詞句
(mit+与格)奪格
(Ablativus)ある場所からの起点・分離・原因。
例: 「家から」、「恐怖から」。前置詞句
(von+与格)位格
(Locativus)ある場所に「いる」こと。
例: 「家で」。前置詞句
(in+与格)対格
(Accusativus)「到達点」「動作の目標」として使われる。
例: 「父が息子を呼ぶ」。4格
直接目的語
※属格の文法については雑学【属格の後置修飾と英語の所有格('s)の由来】を参照
印欧祖語の時代は冠詞も前置詞もありませんでしたので、名詞の格による語尾変化だけで場所や方向も表現していました。ゲルマン祖語の頃に格体系の一部は「前置詞+名詞」という使い方で統合されましたが、(英語と違って)ドイツ語では「与格=場所/方向先」や「対格=方向目標」という使い分けが現在も残っています。
⇒【前置詞の与格/対格/両格と省略形】
参考:他言語の整理
- ラテン語 → 6格(具格と奪格が合流、位格は部分的に痕跡)
- 古代ギリシア語 → 5格(具格・奪格・与格が合流)
- サンスクリット → 8格をよく保持
- ゲルマン語における再分配(ドイツ語が継承)
- 静止した場所(どこにいる?)を表すときの「位格」の機能を「与格」が引き継ぎました
→ in der Stadt 「町で」
- 移動して到達する場所(どこへ行く?)は、目標格としての役割を持っていた「対格」がそのまま継承しました
→ in die Stadt 「町へ」
注:ただし前置詞の格支配が優先されるため、zuの場合は与格を使います
→ zur(zu der) Stadt 「町へ」
- 起点(どこから?)を表すときの「奪格」が失われたため、von+「与格」などで表すようになりました
→ von der Stadt 「町から」
【名詞の性(男性・女性・中性)&数(単双複)】
現在の名詞の性は規則性が見えなくなっているので難しさしかありませんが(使うものを丸暗記するしかない)、由来を理解しておくと「屈折の規則性」として、男性名詞と中性名詞、女性名詞と複数名詞に類似点がある理由が理解できます。
男性/女性/中性 日本語の「人がいる」/「物がある」といった区別や擬人法表現を想像してください。ドイツ語の先祖である印欧祖語も同様に有生・無生の区別から始まり、無生が中性名詞に、有生は主体的な男性名詞と集合的な女性名詞に分かれました。
これらの分類は性別ではなく語尾で区別されていたため、現在でも幾つかの単語(特に女性名詞)は語尾を手掛かりとした判別ができます。
印欧祖語 有生 無生 ドイツ語 男性 女性 中性
歴史的経緯(詳述)
印欧祖語では二つの性『有生(animate)/無生(inanimate)』でした。この区別は、「命があるかないか」という生物学的な基準というよりも、
であり、「文法的に行為を担う主体になれるかどうか」が基準でした。動物でも石や川でも、文化や神話によっては「動いて行為する存在」とみなされれば有生扱いになる場合もありました。
- 有生:動く・生命を持つと認識されるもの(人間、神、動物、時に植物など)で「行為者」になれるもの
- 無生:静的な物体(石、山、道具など)や抽象的なものなど「行為者」にはなれないもの
この「有生」がさらに分化して 男性/女性 に分かれます。元々は、基本となる名詞に規則的な語尾を付けて(男女を含む)様々な分類が行われるようになりました。それらに格を示す屈折(語尾変化)が対応して付いていました。
この「後から追加された語尾に特徴のある名詞群」には、女性という属性(現代ドイツ語であれば"Freund/Freundin")が語尾で加えられる場合も多かったため総称して女性名詞と呼ばれるようになりました(残りが男性名詞)。
この結果、男性名詞として「主体性・活動性に結びつく語群」が残り、女性名詞として「集合名詞や抽象名詞から分化した語尾に特徴のある語群」が集まりました。
そして、無生はそのまま中性となって三性体系ができたと推定されています。女性名詞の起源と拡大
「花が女性名詞」、「-ung 名詞が女性名詞」という現象は偶然ではなく、印欧祖語以来の「集合・抽象は女性語尾で表す」という歴史的文法習慣の必然的な結果です。
有生カテゴリーから細分化された女性カテゴリーは、印欧祖語の接尾辞"-eh₂"で作られる名詞が女性名詞として扱われました。そのため、以下のような語群が女性名詞に属することが多くなりました。
- 花や植物
花の名前でも例外は der Löwenzahn(タンポポ), das Veilchen(スミレ) など一目瞭然です。
- 花は「動物ほどではないが命がある」と認識されました
- 「集合的・自然的」な性格が女性語尾に吸収されやすく、花の名前の多くが女性名詞となりました
例:die Rose, die Tulpe, die Lilie, die Narzisse, die Dahlie
- 抽象名詞・集合名詞
- 動作・性質・状態を表す語も「抽象的な集合」と見なされ、女性語尾で形成されました
- ゲルマン語ではこれが -ung, -heit, -keit, -schaft などの接尾辞となり、現代ドイツ語でも女性名詞を作ります
例:die Bewegung(運動), die Bedeutung(意味), die Freundschaft(友情)
印欧祖語では、有生=男性/女性、無生=中性 のように再編成が進みましたが、集合・抽象名詞は女性的カテゴリーへ分類されました。
集合・抽象を示す語尾 -eh₂ から派生した女性語尾を持つ単語には植物や自然物の傾向が強かったのです。花や植物の多くは「女性語尾」で呼ばれるようになったので、結果的に「花が女性名詞」という傾向になりました。
他にも【顔のパーツの女性名詞は?】を参照。
また、言語学的理由に加えて、文化的なイメージも重なります。花や自然を「女性的」と見なす文化的・詩的なイメージも女性名詞化を強めました。神話や文学で「花=女性・女神」の連想が繰り返され、言語的習慣が定着しました。
- 花は美・繊細さ・装飾性 → 女性的と連想
- 多くの言語で花名が女性名詞(フランス語 la rose, l’orchidée, la tulipe など)
- 古代詩や神話で、花が女性や女神に結びつけられることが多かった
なお、男性名詞と中性名詞はもともと「有生(男)」と「無生」から分化したため、屈折や冠詞が似ていました。
例:der Mann / das Kind → 属格 des Mannes / des Kindes
一方、女性名詞は -eh₂ 系の独立した系列を持っていたため、屈折体系が異なります(属格・与格など)。
ちなみに、ドイツ語の祖先言語であるゲルマン祖語はこの体系を引き継ぎましたが、ラテン語系は中性が男性/女性 に分かれて吸収されたようです。兄弟言語である英語が性を無くしたのは周知の通り。
性の特徴(比較表)
性
\
属性男性 女性 中性 文法的な枠組み 活動的
能動的受動的
集合的無生物
抽象的性を決める語尾 日
月
曜日
季節(個)夜
週
時分秒
季節(集合)
-ung
-heit
-keit
-schaft年
-chen
-lein例 der Morgen
der Abend
der Tag
der Monat
der Sommer
der Mittag
der Montagdie Nacht
die Woche
die Stunde
die Minute
die Sekunde
die Jahreszeit
die Bedeutung
die Freiheit
die Freundschaftdas Jahr
das Jahrzehnt
das Jahrhundert
das Mädchen
das Büchlein
単数/双数/複数 印欧祖語の時点では3性に別々の双数形(2個は別扱い)と複数形が存在していましたが、双数は複数に吸収され(ドイツ語beideや英語bothはその代用)、女性名詞が集合的要素から発展したものであることから男性名詞複数と中性名詞複数が女性名詞複数に吸収されてしまいます。
印欧祖語 男性双数
男性複数女性双数
女性複数中性双数
中性複数ゲルマン祖語 男性複数 女性複数 中性複数 ドイツ語 女性複数
名詞の双数とは?
名詞には単数(singular)と複数(plural)がありますが、印欧祖語の時代には 「双数(dual)」 という二人だけを指す文法がありました。
もちろん、現代ドイツ語や英語ではこれらは「複数」に吸収されました。なので「私とあなただけ」というニュアンスを強調したければ、
- 一人称の双数:we₂(私たち二人、「私+あなた」専用)
- 二人称の双数:yuH₂(君たち二人)
のように言います。
- nur wir beide(ただ私たち二人だけ)
- ich und du(私と君)
歴史的経緯(詳述)
印欧祖語の時点では3性に別々の双数形(2個は別扱い)と複数形が存在していましたが、女性名詞は集合・抽象名詞から発展したものであり、中性複数も集合的に扱われていたことから女性複数に吸収されてしまいます。
結局、複数では「集合的」性質が優先され、男性複数は数的に少なかったこともあって女性複数の形が代表として生き残ったと考えられます。これを受けて、現代ドイツ語では複数が第4の性として独立して扱われています。
- 古・高ドイツ語の時代(8〜11世紀)
男性・女性・中性の区別は単数・複数どちらにも残っており、複数でも性ごとに違う冠詞を使っていました。- 中・高ドイツ語の時代(11〜14世紀)
複数冠詞の形態が次第に似てきて、音変化で区別が弱まります。
複数での「性の区別」がだんだん曖昧になり、「複数=一種類の冠詞でOK」という方向に進み、「性よりも単数/複数の区別」が優先されるようになりました。- 新・高ドイツ語(16世紀以降)
複数はすべて die に統一され、単数では der / die / das が性を区別するけれど、複数では「性を区別せず、数だけを区別する」体系になりました。
複数形の規則表
性
\
規則男性/女性/中性 備考 -e(+ウムラウト) der Tag → die Tage
der Hund → die Hunde
das Wort → die Worte(単語)多くの男性名詞、いくつかの中性名詞 -er(+ウムラウト) der Mann → die Männer
das Buch → die Bücher
das Kind → die Kinder
das Dorf → die Dörfer
das Wort → die Wörter(発言)多くの中性名詞 -n / -en die Frau → die Frauen
die Katze → die Katzen
der Junge → die Jungen
der Student → die Studentenほぼ全部の女性名詞、弱変化男性名詞 -s das Auto → die Autos
der Chef → die Chefs
das Hotel → die Hotels外来語・略語 変化なし das Mädchen → die Mädchen
der Lehrer → die Lehrer
das Fenster → die Fenster短い中性名詞、-chen、-lein など ウムラウトだけ der Apfel → die Äpfel
die Mutter → die Mütter
die Tochter → die Töchter主に単音節の男性名詞・女性名詞
ここまでで男性と中性が似ており(印欧祖語の有生/無生の単数)、女性(有生から集合的要素が分離)と複数が似ているのが分かったと思います。
これに「格」(【格の種類(8格 ⇒ 4格&前置詞句)】)と組み合わせた屈折の例を示します(【冠詞と形容詞の強変化/弱変化と混合変化】で詳述)。
参考:冠詞(der/die/das/die)の変化
格\性 男性 女性 中性 複数 主格(は、が) der die das die 属格(の) des der des der 与格(に、へ) dem der dem den 対格(を) den die das die 歴史的解説
注:印欧祖語には 性 × 数 × 格 の複雑な体系があり、名詞の語尾で性を、屈折で格を示していました。その後、名詞句として冠詞や形容詞が付くと、屈折は前方にある単語が受け持つようになって、名詞そのものからは屈折が消えて行きました。
男性(有生)名詞は「主体的な存在」として文中で重要な役割を果たしました。古ゲルマン語でも男性名詞の屈折は主格・属格・与格・対格の区別が明確でしたが、中性は無生起源のため格による機能差が少なく屈折が単純でした。古・高ドイツ語では中性単数は男性と同じ形を部分的に使うことがあり、特に属格と与格では男性と中性が同じ屈折を取るパターンが残りました。
一方、女性名詞(集合・抽象起源)は有生の名詞グループから語尾の特徴を基準に分離しました。独自の屈折体系でしたが男性ほど主体性はないため複雑ではありませんでした。当時の女性名詞は単数でも格の区別が必要だったため、属格・与格でも別形を残す傾向がありました。古ゲルマン語になっても一部別形が残っていましたが、現代ドイツ語では音変化や屈折の簡略化により統合(der に一本化)されました。
日本語の「てにをは」に相当する語尾変化を表にする場合(名詞の性は後述)、1、4、3、2格の順(使用頻度順、伝統的なドイツ語文法学の並べ順)を使う教科書もありますが、1〜4格順の方が実際に使う順として覚えやすいです。
《男性名詞の格変化をすべて使った例文》 Der(1格) Hund des(2格) Nachbarn gibt(V2) dem(3格) kleinen Jungen (いろいろ) den(4格) Ball .
《女性名詞の格変化をすべて使った例文》 Die(1格) Katze der(2格) Nachbarin gibt(V2) der(3格) kleinen Frau (いろいろ) die(4格) Puppe .
《中性名詞の格変化をすべて使った例文》 Das(1格) Tier des(2格) Nachbarhauses gibt(V2) dem(3格) kleinen Kind (いろいろ) das(4格) Spielzeug .
【名詞句の屈折と弱変化名詞】
名詞句は「(冠詞)+(形容詞)+名詞」で構成されますが、全体で格を表せれば良いというのが基本的な考え方です。冠詞が無かった印欧祖語の時代は名詞にも屈折(語尾変化)があり、中高ドイツ語(Mittelhochdeutsch, ca. 1050–1350)まではかなり屈折が残っていました。
冠詞が使われるようになると形容詞や名詞では「格の屈折の重複」を回避するように「弱変化」が使われるようになりました。【冠詞の誕生】
名詞句は「冠詞+形容詞+名詞」で構成されます。これを主語として使うか、目的語として使うかで屈折(語尾変化)します。ただし、【形容詞の強変化/弱変化と混合変化】で解説した通り、複雑な場合分けが必要となっています。これは冠詞が中世以降に文法化されたためです。
そもそも印欧祖語の時点では冠詞という品詞が存在していませんでした。その役割(格・数・性による屈折)は名詞自体が持っていました。また、形容詞も屈折を持っていました。
ゲルマン祖語の段階でも名詞の屈折がまだ比較的しっかり残っていて、文法関係を示すために冠詞は必要ありませんでした。「この」「その」にあたる指示代名詞(*sa, *þat, *sō など)はありましたが、それはまだ「冠詞」ではなく純粋に「指示語」でした。不定冠詞(ein)もまだ「数詞」としてしか存在しませんでした。
ゲルマン祖語が後期古英語・古高ドイツ語・古ノルド語などに分かれた時代に、各言語の中で指示代名詞が「定冠詞」化(ゲルマン祖語 *sa → 古高ドイツ語 der, diu, daz → 現代ドイツ語 der, die, das)、数詞 ainaz(=「一つ」)が不定冠詞(ein)として文法化しました。
つまり冠詞は、名詞の屈折が弱まってきた後の補助手段として登場した比較的新しい文法要素です。
冠詞の発達過程(ゲルマン語派)
時代 定冠詞 不定冠詞 特徴 ゲルマン祖語
(~紀元200頃)なし。
ただし指示代名詞 *sa (m.), *sō (f.), *þat (n.) が存在なし。
ただし数詞 *ainaz(=一つ)が存在名詞の格変化が豊かなので冠詞は不要。指示代名詞は「この」「あの」の意味でしか使われない。 古高ドイツ語
(6~11世紀)指示代名詞 *sa が文法化しつつあり、 der, diu, daz が「定冠詞」として使われ始める 数詞 ein(古形 *einaz)が「不定冠詞」のように用いられるが、まだ数詞的用法が中心 「der Mann」は「その男」とも「その男は」という文法マーカー的機能も持つ。 中高ドイツ語
(11~14世紀)der, die, daz が明確に「定冠詞」として定着 ein が「不定冠詞」として定着。
ただし「一人の~」という数詞的意味も残る名詞語尾の屈折が摩耗してきたため、冠詞が格・性・数を担うように。 新高ドイツ語
(16世紀以降~現代ドイツ語)der, die, das を中心とした定冠詞体系が確立 ein(不定冠詞)が数詞 eins と分化 名詞の屈折は弱化し、冠詞が主要な文法標識になる。
屈折の比較
- 印欧祖語の指示代名詞(男性単数 so:「その」の起源)から現代ドイツ語の定冠詞
時代
\
格印欧祖語 ゲルマン祖語 古高ドイツ語
(約9世紀)現代ドイツ語 主格 so sa der der 属格 tósyo þes des des 与格 tósmey þem dem dem 対格 tom þan den den ポイント 音変化
• 印欧祖語の t がゲルマン祖語の有声歯摩擦音 þ(グリムの法則)
• 印欧祖語の母音の短縮や母音交替もあり現代ドイツ語の定冠詞は、形の面で古高ドイツ語とほぼ同じ - 印欧祖語の数詞(óynos:「一」の起源)から現代ドイツ語の不定冠詞
時代
\
格印欧祖語 ゲルマン祖語 古高ドイツ語 現代ドイツ語 主格 óynos ainaz ein ein 属格 óynosyo ainis eines eines 与格 óynoy ainamma einem einem 対格 óynom ainan einen einen
※ 弱変化名詞はゲルマン語時代に登場したものの名残りと考えられています。
【冠詞(不定冠詞/定冠詞)の付け方(独&英)】
ドイツ語でも英語でも、いざ会話をしようとすると「定冠詞を付けるべきか、不定冠詞を付けるべきか、はたまた不要なのか」が日本人には悩みどころです。
ドイツ語と英語の冠詞
\ ドイツ語 英語 定冠詞 der, die, das など the 不定冠詞 ein, eine など a, an
基本の考え方(共通原則)
状況 冠詞の種類 説明 ドイツ語の例 英語の例 まったく新しく登場するもの
(聞き手がまだ知らない)不定冠詞 「ある〜」「とある〜」という意味 Ich habe einen Hund gesehen. I saw a dog. すでに話題に出たもの、特定できるもの 定冠詞 「その〜」という意味 Der Hund war groß. The dog was big. 一般的な概念・全体を指す
(「〜というもの」)無冠詞
(または定冠詞)「〜とは」「〜という存在」 Hunde sind freundlich. Dogs are friendly. 固有名詞
(人名・国名・都市名など)冠詞なし
(ただし例外あり)Ich wohne in Berlin. I live in Tokyo.
いずれの言語でも、初出・不特定のものには不定冠詞、その言葉を次に使う時は定冠詞、とするのが基本です。
ドイツ語では一般概念・複数形(一般論)・物質名詞・固有名詞などが無冠詞になり、英語では複数・不可算名詞の一般論や固有名詞・曜日・月などが無冠詞になります。
もっと単純化すると、冠詞があるのは「数えられる・区別されるもの」、冠詞がないのは「数えないもの・一般的な意味」、で判断することができます。
迷いやすい名詞
ドイツ語 冠詞の有無 例文 解説 Schule
Kirche
Krankenhaus
Bett
Hause
Arbeit❌ 一部無冠詞(決まった前置詞句) in der Schule(冠詞あり)
zu Hause, bei Arbeit(無冠詞)「zu Hause」「bei Arbeit」などは慣用的。英語より冠詞を省かない傾向。 Frühstück
Mittagessen
Abendessen❌ 無冠詞が普通 Ich esse Frühstück um acht. 食事名は冠詞なしが自然。特別な場合のみ冠詞あり。 Natur ❌ 無冠詞 Ich liebe Natur. 一般的に「自然」全体を指すとき。 ✅ 定冠詞
(特定の性質)Die Natur des Menschen 「人間の本性」など限定された意味。 Leben
Tod
Liebe
Freiheit❌ 無冠詞(抽象的) Leben ist kurz. 抽象名詞の一般用法では冠詞なし。 ✅ 定冠詞
(特定の例)Das Leben Jesu 「イエスの生涯」など具体的な場合。
英語 冠詞の有無 例文 解説 school
church
hospital
bed
home
work❌ 無冠詞(目的をもって行くとき) go to school, be in hospital, go to bed 「その場所の本来の目的で利用している」場合は冠詞を付けない。 ✅ 定冠詞
(特定の建物)go to the school near my house 「家の近くのあの学校」など、特定の場所なら冠詞を付ける。 breakfast
lunch
dinner❌ 無冠詞(一般的に) have breakfast at 8 習慣的な食事には冠詞なし。 ✅ 定冠詞
(特定の食事)have a dinner with clients 「特別な夕食」や「一回の食事」は冠詞あり。 nature ❌ 無冠詞 love nature 「自然一般」という意味。 ✅ 定冠詞
(the ~ of X)the nature of reality 「〜の性質」など特定の意味。 life
death
love
freedom❌ 無冠詞(抽象的) Life is short. 抽象名詞は無冠詞が多い。 ✅ 定冠詞
(具体化)the life of a sailor 「ある人の生活」という具体的文脈。
冠詞の有無の多くはドイツ語と英語が同じになるので一方を覚えるのも有効ですが、「(一般的に)学校へ行く」(独:in die Schule gehen、英:go to school)のパターンは逆になるので例外として覚える必要があります。
現代ドイツ語では名詞の屈折が単純化されて以下のみとなっています。
「主格以外すべてに -en / -n」を付ける弱変化名詞(n-Deklination)の例
- 男性・中性の属格単数(-s / -es)
• der Hund → des Hundes
• das Kind → des Kindes
• der Tag → des Tages
「冠詞なしの属格」はほとんど(人名・地名など)が前置修飾になります。
例:Deutschlands höchste Berge
(ドイツのもっとも高い山々)
※ 属格 → 修飾語 → 被修飾語 という順序(英語と同じ)- 複数の与格(-n)
• die Männer → den Männern
• die Kinder → den Kindern
• die Frauen → den Frauen(すでに -n で終わる場合は変化なし)
- 慣用句に残る与格単数(-e)
ヤーコプ・グリムは『Deutsche Grammatik(ドイツ語文法)』で、「歴史的には標準的な文法変化の一部だったが消失傾向にあり、慣用表現や定型句(zu Hause など)では例外的に残存している」という説明をしています。
主な例(慣用・固定句) ただし、現代語の日常会話では語尾(-e)を付けないものもあります(im Wald、am Tag、im Jahr、など)。
表現 現代語訳 備考 zu Hause 家で 「Haus」→「Hause」古い与格形 im Grunde 基本的には Grund(基)+ -e im Stande sein 〜できる状態である Stand(状態)+ -e im Falle eines Falles 万が一の場合 Fall(場合)+ -e im Bunde sein 同盟している Bund(同盟)+ -e im Schlafe 眠っているときに(詩語) Schlaf(眠り)+ -e im Dunkeln(e) 暗闇の中で(古風) Dunkel(暗闇)+ -e zu Pferde 馬に乗って(詩語) Pferd(馬)+ -e im Walde 森の中で(詩・歌など)
例:KHM013 Die drei Männlein im WaldeWald(森)+ -e am Tage 日中に(詩・格調高い文体) Tag(日)+ -e im Jahre 2025 2025年に(古風だが公式文体に多い) Jahr(年)+ -e
- 例外:弱変化名詞(主格以外すべてに -en / -n)
• der Student → des Studenten, dem Studenten, den Studenten
• der Mensch → des Menschen, …
注:冠詞は属格、以下の弱変化形は複数形と同形になるので冠詞による判別が重要
🔹弱変化名詞の特徴
- 人を表す名詞(最も多い)
- der Student → des Studenten
- der Mensch → des Menschen
- der Junge → des Jungen
- der Kunde → des Kunden
- der Kollege → des Kollegen
- der Kollege → den Kollegen
- der Prinz → des Prinzen
- der Graf → des Grafen
- der Nachbar → des Nachbarn
- der Herr → des Herrn(※例外:複数形はHerren)
- 動物
- der Bär → des Bären
- der Löwe → des Löwen
- der Hase → des Hasen
- der Affe → des Affen
- der Drache → des Drachen
- 物・抽象名詞
- der Name → des Namen
- der Friede → des Frieden
- der Gedanke → des Gedanken
- der Wille → des Willen
- der Glaube → des Glauben
- 名詞化形容詞(※例外)
- das Liebste → an dem Liebsten
• ほとんどが 男性名詞で、特に人や動物を表す名詞が多い
• 語尾に -e, -ant, -ent, -ist, -oge, -at, -et, -it, -us を持つ名詞は弱変化に属することが多い
注:古い文法なので覚えない事!中高ドイツ語の屈折パターン
中高ドイツ語では、名詞は 性(m./f./n.)、数(sg./pl.)、格(N, G, D, A) によって変化しました。
この当時は複数形も「単数形の格変化の一部」です。
🔹 現代語との違い
- 強変化 (stark)
典型的に語幹母音+-s/-es 属格を持ちます。男性の例:tag(日)
格\数 単数 複数 N:主格(は、が) tag tage G:属格(の) tages tage D:与格(に、へ) tage tagen A:対格(を) tag tage 中性の例:wort(言葉)
格\数 単数 複数 主格(は、が) wort worte 属格(の) wortes worte 与格(に、へ) worte worten 対格(を) wort worte 女性の例:zît(時) 👉 女性は 属格に -e がつくのが特徴。
格\数 単数 複数 主格(は、が) zît zîte 属格(の) zîte zîte 与格(に、へ) zîte zîten 対格(を) zît zîte - 弱変化 (schwach)
男性に多く、語幹に -en/-n が付きます。例:hase(兎, m.)
格\数 単数 複数 主格(は、が) hase hasn(e) 属格(の) hasn(e)n hasn(e)n 与格(に、へ) hasn(e)n hasn(e)n 対格(を) hasn(e)n hasn(e)n - 混合変化 (gemischt)
一部は強変化、一部は弱変化。
👉 主格単数だけ特別で、他は弱変化。例:herre(主人, m.)
格\数 単数 複数 主格(は、が) herre herren 属格(の) herren herren 与格(に、へ) herren herren 対格(を) herren herren - 特殊変化(-r-, -n-幹など)
• 語幹が -r- をもつもの(vater, bruoder など)は独自の変化。
• 中性で母音交替するもの(mann → mænner のような Umlaut 複数)。
• 女性名詞は中高ドイツ語では属格語尾が -e(例:der sunne kraft → 「太陽の力」)だったが、現代語では -e が消滅
• 与格複数には -n が必須(den liuten → den Leuten)で、これは現代語にも残る
• 中性複数 -er(kind → kinder)も中高ドイツ語から継承
【人称代名詞と所有代名詞(と所有形容詞)】
人称代名詞 人称代名詞の格変化
人称
\
格私 君 彼 彼女 それ 私たち 君たち 彼ら あなた(敬称) 主格(は、が) ich du er sie es wir ihr sie Sie 属格(の) meiner deiner seiner ihrer seiner unser euer ihrer Ihrer 与格(に、へ) mir dir ihm ihr ihm uns euch ihnen Ihnen 対格(を) mich dich ihn sie es uns euch sie Sie 3つのsieの謎
同形のsie 大文字Sieは二人称(あなた)ですが動詞は三人称複数形をとるので、三人称複数sieとは文の意味で区別する必要があります。
表記 英語 用法 意味 動詞の型 例文 sie she 三人称単数女性 彼女 三人称単数 Sie ist schön. sie they 三人称複数 彼ら/彼女たち 三人称複数 Sie sind hier. Sie you (敬称) 二人称単数・複数(敬称) あなた/あなたがた 三人称複数形を使用 Sie sind freundlich.
同形となった由来 概要:女性単数sieと複数sieは音変化と形態の単純化により偶然同形化しました。敬称のSieは「三人称複数形を二人称の丁寧表現として転用」したもので、英語のyouも同じ経緯を辿っています。
- 女性単数の sie と 複数の sie の関係
古ゲルマン語では、女性単数と複数の代名詞が同じ語幹(sī- 系)から派生していました。
・ 女性単数は原始ゲルマン語 si
・ 三人称複数は原始ゲルマン語 sīa / þai(thai) 系の形から再編成
音変化・類推・屈折(語尾変化)の単純化の結果、中高ドイツ語期に単数・複数とも同形「sie」に統一されていきました。- 敬称 Sie の起源
中高ドイツ語では複数代名詞sie(彼ら)を相手への丁寧な呼びかけとして使うことがありました(「ご一同様」という婉曲敬語の発想)。
この「複数敬称」がやがて単数相手にも使われるようになり、「あなた(=Sie)」の意味が成立して近世ドイツ語期に定着しました。この時に、語頭を大文字「S」として区別する慣習が生まれました。
英語のyouも同じ発展です(次項【英語の仮定法If I wereのwereって何?】の後半で解説)。
👉 属格は次の所有代名詞を使います(人称代名詞の属格は文語や特定の表現でだけ登場)。
所有代名詞(と所有形容詞) das Buch meiner(人称代名詞の属格)という使い方はせず、mein(所有形容詞) Buchとするのが正しい文法となります。このときに所有形容詞と冠詞は同時には使わないのが原則です。
所有代名詞は厳密には名詞の有無で分けられますが、一般的な教科書では一括して扱っています。
- 所有形容詞 (Possessivbegleiter)
「名詞を伴う形容詞的用法」で使います。
※簡単のため同形となる組み合わせをまとめています。
人称 男性/中性 女性/複数 英語 ich mein meine my du dein deine your er/es sein seine his/its sie ihr ihre her wir unser unsere our ihr euer eure
(綴りに注意!)your sie/Sie ihr/Ihr ihre/Ihre their/your
形容詞と同じように名詞の性・数・格によって語尾変化します。
所有形容詞(mein)の格変化 注:塗りつぶしたセルは形容詞(強変化、【冠詞と形容詞の強変化/弱変化と混合変化】を参照)との相違箇所。
格\性 男性 女性 中性 複数 主格(は、が) mein Vater meine Mutter mein Buch meine Kinder 属格(の) meines Vaters meiner Mutter meines Buches meiner Kinder 与格(に、へ) meinem Vater meiner Mutter meinem Buch meinen Kindern 対格(を) meinen Vater meine Mutter mein Buch meine Kinder
👉 他の所有形容詞も同じルールで、属格 は名詞自体にも -s / -es が付く場合があります(男性・中性)。- 所有代名詞
名詞を省略して単独で「私のもの」「君のもの」と言う場合に使います。このときは 格に応じて「-s/-e/-en」などの屈折語尾がつく形 になります。
※簡単のため同形となる組み合わせをまとめています。
※属格と与格は所有形容詞と同じです。
人称 男性
上:主格
下:対格中性
(主格/対格共通)女性/複数
(主格/対格共通)英語 ich meiner
meinenmeins meine mine du deiner
deinendeins deine yours er/es seiner
seinenseins seine his/(its own) sie ihrer
ihrenihres ihre hers wir unserer
unserenunseres unsere ours ihr eurer
eureneures eure yours sie/Sie ihrer/Ihrer
ihren/Ihrenihres/Ihres ihre/Ihre theirs/yours 【疑問詞と関係代名詞】
疑問詞(Fragewörter / Interrogativpronomen) 人・物・方法・場所・理由などを尋ねるときに使います。
疑問詞 意味 備考 wer 誰 主格
wen(対格)
wem(与格)
wessen(属格)was 何 格変化なし
属格はまれにwessenwelcher / welche / welches どの(~) 性・数・格で変化 was für ein どんな(種類の) ein の部分は性・数・格で変化 wo どこで 静的な場所 wohin どこへ 方向を伴う場所 woher どこから 出所を伴う場所 wann いつ 時間 wie どのように 方法、程度 wie viel いくら、どのくらい 数量(不可算名詞) wie viele いくつ、どのくらい多くの 数量(可算名詞) warum なぜ 一般的 wieso / weshalb / weswegen なぜ warum の言い換え。やや口語的な違い
関係代名詞(Relativpronomen) 先行詞を受けて関係節(SOV)を導きます。基本は der, die, das の格変化を使います。
- 定冠詞型
格\性 男性 女性 中性 複数 主格(は、が) der die das die 属格(の) dessen deren dessen deren 与格(に、へ) dem der dem denen 対格(を) den die das die - その他の関係代名詞
関係代名詞 用法 welcher / welche / welches 文語的、強調的に使うことがある wer, was 不特定先行詞を受ける
例文:Wer zu spät kommt, den bestraft das Leben.「遅れて来る者は人生に罰せられる」wo, wohin, woher 関係副詞として場所を受ける
例:die Stadt, wo ich geboren binwie 関係副詞(特に so … wie の形) was 「不定代名詞 alles, etwas, nichts」などを受ける
例:alles, was ich habe
【冠詞と形容詞の強変化/弱変化と混合変化】
形容詞は名詞以上に複雑な語尾変化(屈折)をするので、可能な限り整理しました。
大きく分けて、
となります。数字の1(不定冠詞 ein)は混合変化、2(数詞 zwei)以上は「冠詞が付かない場合」となるので強変化、といった混乱も起きやすいです。
- 冠詞が付かない場合:強変化
- 定冠詞(derなど)が付く場合:弱変化
- 不定冠詞(ein,kein,meinなどの所有冠詞)が付く場合:混合変化
※所有冠詞は所有代名詞と同じ形だが文法の定義としては別物
強変化と弱変化の使い分けは以下のようになります(要は最初に出てくる単語が強変化、以降は弱変化)。
※名詞は強変化名詞と弱変化名詞に分かれており、上記とは別の格変化となるので注意!⇒【名詞の屈折と弱変化名詞】
形容詞 名詞 冠詞 名詞 定冠詞 形容詞 名詞 不定冠詞 形容詞 名詞
形容詞の強変化 *1、*2:中高ドイツ語 (Mhd, 1050–1350)では -es が使われていたが、名詞にも -es を付けているため、現代ドイツ語では二重属格を回避すべく -en(弱変化) となりました。
格\性 男性 女性 中性 複数 主格(は、が) alter Mann alte Frau altes Kind alte Leute 属格(の) alten(*1) Mannes(*A) alter Frau alten(*2) Kindes(*B) alter Leute 与格(に、へ) altem Mann alter Frau altem Kind alten Leuten(*C) 対格(を) alten Mann alte Frau altes Kind alte Leute
*A、*B、*C:中高ドイツ語までは名詞も全ての性・格で屈折していましたが、簡略化によって他は消失してしまいました(【名詞の屈折と弱変化名詞】を参照)。
形容詞の弱変化(-e / -en)
格\性 男性 女性 中性 複数 主格 der alte Mann die alte Frau das alte Kind die alten Leute 属格 des alten Mannes der alten Frau des alten Kindes der alten Leute 与格 dem alten Mann der alten Frau dem alten Kind den alten Leuten 対格 den alten Mann die alte Frau das alte Kind die alten Leute 混合変化(einは複数がない) ※混合変化の主格と対格は強変化、属格と与格は弱変化
格\性 男性 女性 中性 複数 主格 kein alter Mann keine alte Frau kein altes Kind keine alten Leute 属格 keines alten Mannes keiner alten Frau keines alten Kindes keiner alten Leute 与格 keinem alten Mann keiner alten Frau keinem alten Kind keinen alten Leuten 対格 keinen alten Mann keine alte Frau kein altes Kind keine alten Leute
形容詞を複数並べる場合は同じ語尾変化にして並べるだけです。
【Alles Gute zum Geburtstag(名詞化形容詞)】
英語の something good のように「形容詞が後ろに置かれる構造」はドイツ語にもあります。
※ここでポイントとなるのは形容詞が名詞化して大文字で始まっている点です。
- etwas Schönes(何か美しいもの)
- nichts Neues(新しいことは何も)
- alles Gute(すべての良いこと)
語尾の違いは【冠詞と形容詞の強変化/弱変化と混合変化】で述べた強変化 と弱変化によるものです。
※「直前の語が格を明示していれば続く形容詞は弱変化になる」という点は名詞が続く場合と同じです。
直前の語 例 語尾の変化 不定代名詞 etwas, nichts, alles, viel, wenig強変化 名詞を限定する冠詞的役割を持つ不定代名詞 alles 弱変化 定冠詞や指示代名詞 der/die/das, dieser, jener… 弱変化 (なし) - 強変化
歴史的経緯(英語との違い)
英語とドイツ語の分岐点となるゲルマン祖語では「形容詞の後置修飾」も普通に行われていましたが、説明が複雑になるので前置修飾のみで説明します。
英語の something good は some good thing(古英語だが現代語で表記) を元にしています。ここで英語は some+thing → something と融合して、good は後置修飾の位置になりました。
ドイツ語では etwas Gutes ですが、同様に古高ドイツ語の etwas gutes Ding(本当はetwas guotes dinc)が元になります。中高ドイツ語期の後半になると"Ding(dinc)"が意味的に不要と考えられて、(省略されたのではなく)"gutes"が名詞化形容詞として意味を引き継いで etwas gutes (dinc) となりました。この用法が定着した近世ドイツ語(16世紀以降)に、名詞化形容詞を大文字で始める表記習慣が生まれました。
※どちらも「元の名詞がなくなったこと」が原因で、特殊な構造が残りました。【動詞の名詞化と名詞の動詞化】
動詞の名詞化 英語では不定詞(to + 動詞)で「~すること」という名詞化をしますが、ドイツ語では全ての動詞が「das + 大文字で始まる不定形(原形)」で「~すること」という中性名詞になります(このこと自体があまり教科書で取り上げられてないかも知れません)。
名詞の動詞化 ややこしい事に、そもそも動詞が名詞から派生する現象(=Denominalverb「名詞起源動詞」)も非常に多く見られます。当然、これらの動詞も大文字で始めれば(再)名詞化できます。
具体例
上記の多くは 印欧祖語・ゲルマン語段階ですでに動詞化されており、現代語で見ても形が似ているのはその名残です。
名詞(起点) 動詞(派生) 意味(動詞) 備考(状態名詞から行為動詞へ) der Lauf laufen 走る・流れる 「走り」→「走る」 der Sprung springen 跳ぶ 「跳躍」→「跳ぶ」 der Ruf rufen 呼ぶ 「呼び声」→「呼ぶ」 der Kauf kaufen 買う 「買い物」→「買う」 der Kampf kämpfen 戦う 「戦い」→「戦う」 der Schlaf schlafen 眠る 「睡眠」→「眠る」 die Antwort antworten 答える 「答え」→「答える」 die Hilfe helfen 助ける 「助け」→「助ける」 die Frage fragen 質問する 「質問」→「質問する」 die Rede reden 話す 「演説・話」→「話す」 der Traum träumen 夢を見る 「夢」→「夢を見る」 die Last lasten 重くのしかかる 「重み・荷」→「重荷となる」 die Schuld schulden 借りがある・負う 「負債・罪」→「負う」 der Wunsch wünschen 望む 「願い」→「望む」 die Angst ängstigen 怖がらせる 「恐れ」→「恐れさせる」 die Furcht fürchten 恐れる 「恐怖」→「恐れる」 die Arbeit arbeiten 働く 「仕事」→「働く」 der Zweifel zweifeln 疑う 「疑い」→「疑う」 die Hoffnung hoffen 望む・期待する 「希望」→「希望する」
例外はtragen 動詞 tragen(運ぶ) の不定形を名詞化した das Tragen(運ぶこと) は、現代ドイツ語でもきちんと存在する語です。それとは別に、die Trage(担架、運搬用具)や der Träger(運ぶ人、担い手)が作られました。
つまり:
tragen(動詞) → das Tragen(行為) → der Träger(行為者) → die Trage(道具) というふうに、同じ語根から複数の語が派生しています。
副詞句/前置詞句 前置詞句は文法を覚えるより、よく使うもの(例えば「カフェで」なら「im Café」の句全体)を個々に覚えた方が会話では有効です。
※ 他の表現はありませんので
【副詞の語順(TEKAMOLOルール)】
形容詞と副詞に区別はありません。名詞を修飾する時に語尾が屈折する時だけ文法的に「形容詞」と呼ばれます。
基本的な文の構造は、
主文(V2):主語+動詞+間接目的語(与格)+副詞句/前置詞句+直接目的語(対格)+動詞句の残り.
従属節(SOV):主語+間接目的語(与格)+副詞句/前置詞句+直接目的語(対格)+動詞句.
※SOVは日本語と同じ順ですが、複数の副詞句/前置詞句が並ぶときの標準語順がTE–KA–MO–LO(テカモロ)です。後述するように英語とも異なります。
なお、TE–KA–MO–LOは日本人学習者向けの特殊な用語であって、ドイツ文法で規定された専門用語ではありません。
- TEKAMOLOとは?
👉 文末に向かうほど「具体的」になります。
略号 ドイツ語 日本語 内容 TE Temporal 時 いつ KA Kausal 原因 なぜ MO Modal 方法 どのように LO Lokal 場所 どこで
- 基本例
- ドイツ語
Ich lerne heute wegen der Prüfung fleißig zu Hause.
- 英語対応文(逆方向:方法→場所→時→原因)
I study hard at home today because of the exam.
- なぜこの順なのか
- ドイツ語
「背景 → 動機 → やり方 → 実際の位置」
👉 論理・構造重視
- 英語
「行為 → 状況 → 時点」
👉 出来事描写重視
観点 ドイツ語 英語 副詞語順 TEKAMOLO 方法→場所→時 原因の位置 時の直後 文末・自由 文頭副詞 動詞2番目を強制 語順自由 語順違反 強い違和感 意味で許容
参考:よくある学習者の誤り(英語話者視点)
❌ Ich lerne fleißig zu Hause heute.
👉 英語順を持ち込んでいる
⭕ Ich lerne heute fleißig zu Hause.
- nur / auch / schon
これらはTEKAMOLOより常に優先され、修飾対象の直前に置かれます。
※ auchは前置も可能ですが、混乱を避けるため、ここではより一般的な後置に統一しています。
- TE(時)との関係
•Ich lerne nur heute zu Hause.
•Ich lerne heute auch zu Hause.
•Ich lerne schon heute zu Hause.
- KA(原因)との関係
•Ich lerne nur wegen der Prüfung zu Hause.
•Ich lerne wegen der Prüfung auch zu Hause.
•Ich lerne schon wegen der Prüfung zu Hause.
- MO(方法)との関係
•Ich lerne heute nur fleißig zu Hause.
•Ich lerne heute fleißig auch zu Hause.
•Ich lerne heute schon fleißig zu Hause.
- LO(場所)との関係
•Ich lerne heute fleißig nur zu Hause.
•Ich lerne heute fleißig zu Hause auch.
•Ich lerne heute fleißig schon zu Hause.
【前置詞の与格/対格/両格/属格支配、+省略形】
前置詞を与格専用、対格専用、両格、属格支配に分けて整理します。
注:「両格」は一般的に「二格支配前置詞、Wechselpräpositionen」を指していますが、「属格」の別称「2格」と混同しやすいので、ここでは与格と対格の両方取れるものを「両格前置詞」と表記します。
与格(Dativ)専用の一覧表
前置詞 意味 例文 mit ~と一緒に、
~を使ってIch fahre mit dem Bus.
(バスで行く)nach ~へ(冠詞の無い地名・方向) Wir fahren nach Berlin.
(ベルリンへ行く)bei ~のところで、
~のそばにIch bin beim(bei dem) Arzt.
(医者のところにいる)von ~から、
~のDas Geschenk ist vom(von dem) Freund.
(その友達からのプレゼント)zu ~のところへ Ich gehe zum(zu dem) Haus.
(家へ行く)seit ~以来 Er arbeitet seit dem Morgen.
(朝から働いている)aus ~出身で、
~からEr kommt aus dem Haus.
(家から出てきた)außer ~以外 Alle sind da außer dem Bruder.
(兄以外は全員いる)gegenüber
注:後置詞~の向かいに Dem Haus gegenüber steht ein Baum.
(家の向かいに木がある)zufolge
注:後置詞~によれば dem Bericht zufolge
(報告によれば)
新聞・ニュースなど書き言葉中心zuliebe
注:後置詞~のために dir zuliebe
(君のために)
会話でも普通に使うzum Trotz
注:後置詞~にもかかわらず dem Wetter zum Trotz
(天気にもかかわらず)
やや文語的(新聞や文学で好まれる)対格(Akkusativ)専用の一覧表
前置詞 意味 例文 durch ~を通って Wir gehen durch den Park.
(公園を通る)für ~のために、
~に対してDas Geschenk ist für den Lehrer.
(先生へのプレゼント)gegen ~に向かって、
~に対してEr ist gegen die Idee.
(彼はその考えに反対だ)ohne ~なしで Ich gehe ohne den Hund.
(犬なしで行く)um ~の周りに、
~時にWir sitzen um den Tisch.
(テーブルの周りに座る)entlang
注:後置詞~に沿って den Fluss entlang
(川に沿って)
散歩・道の説明などでよく使う両格前置詞の一覧表
両格前置詞は空間を表す9 個で、「場所(Wo?)」なら与格、「方向(Wohin?)」なら対格と使い分けます。
前置詞 例文(与格=場所) 例文(対格=方向) an Das Bild hängt an der Wand.
(壁に掛かっている)Ich hänge das Bild an die Wand.
(壁に掛ける)auf Das Buch liegt auf dem Tisch.
(机の上にある)Ich lege das Buch auf den Tisch.
(机の上に置く)hinter Der Hund schläft hinter dem Baum.
(木の後ろで寝ている)Der Hund läuft hinter den Baum.
(木の後ろに走る)in Ich bin im(in dem) Haus.
(家の中にいる)Ich gehe ins(in das) Haus.
(家の中に入る)neben Der Stuhl steht neben dem Bett.
(椅子はベッドの横にある)Er stellt den Stuhl neben das Bett.
(彼は椅子をベッドの横に置く)über Die Lampe hängt über dem Tisch.
(机の上にある)Ich hänge die Lampe über den Tisch.
(机の上に掛ける)unter Die Katze schläft unter dem Tisch.
(机の下で寝る)Die Katze läuft unter den Tisch.
(机の下に走る)vor Ich stehe vor dem Haus.
(家の前に立っている)Ich gehe vor das Haus.
(家の前に行く)zwischen Das Auto steht zwischen den Häusern.
(家の間にある)Ich stelle das Auto zwischen die Häuser.
(家の間に置く)【場所と前置詞のエトセトラ】
英語の「place」に使う前置詞をドイツ語(ここでは男性名詞 der Ortを使用)にしてみると以下の通りになります。
- at the place
場所に「いる」という意味なので与格を使います
👉 am(an dem) Ort (その場所に)- to the place
ある場所へ「向かう」ので対格を使います
👉 an den Ort(その場所へ)
ただし、zuを使う場合は与格になります
👉 zum(zu dem) Ort (anほど場所を限定していない)- from the place
出発点を示すので与格を使います
👉 vom(von dem) Ort (その場所から)- in the place
内部に「いる」か「入る」かで変わります
👉 im(in dem) Ort (与格:その場所の中にいる)
👉 in den Ort (対格:その場所の中へ入る)属格支配前置詞の一覧表
属格(2格)を支配する前置詞は数が限られていまる上に、使用頻度が低めで口語では与格に置き換わることもあります。
頻度 前置詞 意味 例・備考 最もよく使うもの anstatt / statt 〜の代わりに Anstatt des Kaffees trank er Tee.
(コーヒーの代わりに彼はお茶を飲んだ)trotz 〜にもかかわらず Trotz des Regens gingen wir spazieren.
(雨にもかかわらず散歩に行った)während 〜の間 Während des Urlaubs hat er viel gelesen.
(休暇の間に彼はたくさん読書した)wegen 〜のために Wegen des Wetters blieb er zu Hause.
(天気のせいで彼は家にいた)
wegen+与格は口語でとてもよく使われるが、標準文法では属格が正しい。
Wegen dem Wetter → 話し言葉
Wegen des Wetters → 書き言葉文語的・やや古風なもの außerhalb 〜の外で Außerhalb der Stadt ist die Luft sauber.
(町の外は空気がきれいだ)innerhalb 〜の中で diesseits 〜のこちら側 jenseits 〜の向こう側 oberhalb 〜の上方で unterhalb 〜の下方で infolge 〜の結果として kraft 〜によって(権限・効力など) laut 〜によれば mittels 〜によって(手段として) angesichts 〜を目の前にして、〜に直面して hinsichtlich 〜に関して inmitten 〜の真ん中で ungeachtet
注:後置詞~にもかかわらず der Gefahr ungeachtet
(危険にもかかわらず)
ほぼ書き言葉専用(契約文書・法律文書)willen
注:後置詞~のために Er tat es seines Vaters willen.
(彼は父のためにそれをした。)
文語・固定句のみ【引っ掛け問題にピッタリ!、Trotzdemの罠】
属格支配前置詞は減少傾向で、wegen(〜のせいで)のように書き言葉としては残っているのに口語(話し言葉)では与格が使われる場合があります。
同傾向を持つ属格支配前置詞がtrotz(〜にもかかわらず)ですが、こちらはさらに厄介なことにtrotzdem(それにもかかわらず)という副詞があります。直感的に気付く通り、trotz+demが1語になったものですが、demは指示代名詞の与格が元になっています。つまり、trotzdem(副詞)が誕生した頃(中世以降)にはすでに、口語では「trotz+与格」が主流になっていたことになります。
口語が文法を変えていくのが言語の常ですが、意地の悪い引っ掛け問題を作るなら属格支配前置詞はピッタリです(:-P)
前置詞+冠詞の省略形の一覧表
冠詞 組み合わせ 省略形 dem
(男性/中性・与格)an dem am bei dem beim in dem im von dem vom zu dem zum der
(女性・与格)zu der zur das
(中性・対格)an das ans auf das aufs in das ins für das fürs hinter das hinters über das übers unter das unters vor das vors 【da + 前置詞】
「da + 前置詞(Pronominaladverb)」は良く使われる副詞なので一覧表にしておきます。
前置詞の特徴 副詞 意味 da + 子音で始まる前置詞 damit それで dabei それに/それに参加して davon それから/それについて dafür それのために dagegen それに反対して danach その後で daneben その横に dazu それに/そのために dadurch それによって dahinter その後ろに davor その前に/それを恐れて dar + 母音で始まる前置詞 daran それに/それについて darauf その上に/それを darin その中に darüber それの上に/それについて darunter その下に darum そのために/そのことで daraus それから/それによって 使い分けの注意
• 物・事に使う → da + 前置詞 (darauf, dafür など)
例:Ich warte darauf.(それを待っている)
• 人に使う → 前置詞 + 人称代名詞 (auf ihn, mit ihr など)
例:Ich warte auf ihn.(彼を待っている)
【wo + 前置詞】
「wo + 前置詞」は質問や関係副詞を作るときに使います。
(英語の what … for / who … with のような働きです。)
wo(r)+前置詞 意味 例文 womit 何で / 何を使って Womit schreibst du?
(何で書いているの?)wofür 何のために Wofür interessierst du dich?
(何に興味があるの?)wogegen 何に対して / 何に反対して Wogegen protestieren sie?
(彼らは何に抗議しているの?)wozu 何のために / 何に役立つのか Wozu brauchst du das?
(それは何のために必要なの?)wonach 何の後で / 何を探して Wonach suchst du?
(何を探しているの?)worauf 何の上に / 何を楽しみに Worauf wartest du?
(何を待っているの?)worüber 何について / 何の上を Worüber lacht ihr?
(何について笑っているの?)woran 何に / 何を思い出す Woran denkst du?
(何を考えているの?)worin 何の中に Worin besteht der Unterschied?
(違いは何にあるの?)worunter 何の下で / 何について Worunter leidet er?
(彼は何に苦しんでいるの?)woraus 何から / 何でできているか Woraus besteht das?
(それは何でできていますか?)worüber hinaus その上さらに Worüber hinaus denkst du?
(さらに何について考えているの?)
直感的に気付く通り「【da + 前置詞】に対応しており、wo / wor の使い分けも同じルールです。
前置詞の特徴 wo(r)+前置詞
(疑問・関係)da(r)+前置詞
(答え・代名詞的)例文 子音で始まる前置詞 womit damit Womit schreibst du?
– Ich schreibe damit.wobei dabei Wobei hilfst du ihm?
– Ich helfe dabei.wofür dafür Wofür interessierst du dich?
– Ich interessiere mich dafür.wogegen dagegen Wogegen protestieren sie?
– Sie protestieren dagegen.wonach danach Wonach suchst du?
– Ich suche danach.wovon davon Wovon sprichst du?
– Ich spreche davon.wozu dazu Wozu brauchst du das?
– Ich brauche es dazu.母音で始まる前置詞 worran daran Woran denkst du?
– Ich denke daran.worauf darauf Worauf wartest du?
– Ich warte darauf.worin darin Worin besteht der Unterschied?
– Er besteht darin.worüber darüber Worüber lachst du?
– Ich lache darüber.worunter darunter Worunter leidet er?
– Er leidet darunter.woraus daraus Woraus besteht das?
– Es besteht daraus.使い分けの注意 「wo(r)+前置詞」 は本来「前置詞 was...?」で表せる問いを、da-系列と対にして整理した形です。
理屈だけで言えば:
• An was denkst du?(何を考えているの?)
• Mit was schreibst du?(何で書いているの?)
ですが、
実際の標準ドイツ語では、
• Woran denkst du?
• Womit schreibst du?
が自然で「正しい」とされます。
※このときにwasではなくdaに対応させたwoが使われる点に注意が必要です!
古高ドイツ語・中高ドイツ語の段階から 「da+前置詞」 / 「wo+前置詞」という合成副詞が使われていました。
つまり歴史的にみても「was+前置詞」ではなく、もともと「wo+前置詞」の体系が主流だった訳です。
【「her + 前置詞」&「hin + 前置詞」、そして「r + 前置詞」】
両格前置詞で対格を使うと方向を表すように(【前置詞の与格/対格/両格/属格支配、+省略形】)、「r + 前置詞」は方向や動きを含む副詞となります。
「r + 前置詞」は口語で使われる「her-/hin-」の口語短縮形で、2つの接頭語を区別なく包含しています。
たとえば、前置詞ausであれば「外へ出る出発点」を取りますが、herausなら「外にいる話し手の方へ」、hinausなら「一緒に中にいる話し手から離れて外の方へ」、という使い分けになります。
- her:こちらへ(話し手のほうへ)
- hin:あちらへ(話し手から離れて)
※これに対してrausは話し手の位置を気にすることなく両方の意味で使えます。
よく使う「her + 前置詞」表現 これらが、r+前置詞(raus, runter, rauf, rein, rüber, rvor, rbei, rum, ran)となります。
結合形 意味 対応する「hin〜」 例文 heraus 外からこちらへ(出てくる) hinaus(外へ出ていく) Komm heraus!
(出てきなさい!)herunter 下からこちらへ(降りてくる) hinunter(下へ降りていく) Sie kommt die Treppe herunter.
(彼女は階段を降りてくる)herauf 上からこちらへ(上がってくる) hinauf(上へ上がっていく) Komm herauf!
(上がってきて!)herein 中に入ってくる hinein(中に入っていく) Bitte herein!
(お入りください)herüber 向こうからこちらへ(渡ってくる) hinüber(向こうへ渡っていく) Er kommt herüber.
(彼がこちらへ渡ってくる)hervor 前に出てくる hinvor(※ふつう使わない) Sie kam aus dem Schatten hervor.
(彼女は影から現れた)herbei こちらへ(近くへ来る) hinbei(めったに使わない) Er rief die Kinder herbei.
(彼は子どもたちを呼び寄せた)herum 周囲をこちらへ(回ってくる) hinum(古風または非標準) Er kommt ums Haus herum.
(彼は家のまわりを回ってくる)heran 近くに寄ってくる hinan(古風) Er kommt an mich heran.
(彼が私のところに近づいてくる)
【形容詞の比較級と最上級⇒副詞的慣用句(am liebsten)】
予備知識:形容詞と副詞
印欧祖語で名詞が三段階あったように、形容詞も三段階(原形、比較級、最上級)ありました。そしてこちらは現在でも残っており、ドイツ語では英語のような形態的に区別された「副詞」はなく、形容詞が名詞を修飾しないときを「副詞的用法」と言います。
「副詞的用法」では、形容詞の基本形あるいは比較級なら語尾変化せずにそのままの形で、最上級なら「am 最上級(st)+en」の形で使います。
ドイツ語では形容詞と副詞の形は同じです。つまり、名詞に掛かれば屈折を伴う形容詞、動詞に掛かれば基本形のままで副詞として使われます。
英語は形容詞に"-ly"を付けて副詞として使いますが、一部(fast、hard、late、early、high、low、long、straight、near、right、wrong、など)はそのまま副詞としても使えます。これらは古英語・中英語で形容詞と副詞の区別が弱かった名残で、歴史的に古い語ほどこの傾向が見られます。
形容詞の比較級と最上級 古来からある表現なので英語とドイツ語は似ています。
※英語はフランス語・ラテン語由来の長い形容詞が多く流入したため屈折(語尾変化)より分析的(more)表現が発達しました。
\ 英語 ドイツ語 比較級 (1音節)
原形+er than ~
(2音節以上)
more +原形(原則)
原形+er als ~
(例外的)
mehr +原形最上級 (1音節)
原形+est
(2音節以上)
the most +原形(原則)
原形+st
(例外的)
am meisten +原形
なお、ドイツ語の形容詞は語尾が変化しますが、「定冠詞・不定冠詞を伴うなら弱変化」という場合が多いので注意が必要です(【冠詞と形容詞の強変化/弱変化と混合変化】参照)。
副詞的慣用句(am+最上級) 中高ドイツ語(~1350年)までは語尾変化をしない形を副詞として使っていましたが、新高ドイツ語の成立期(1500年頃)に「am + 最上級(-sten)」が登場しはじめています。
例えばam liebstenであれば、an(前置詞) dem(与格) liebsten(最上級の弱変化) Weise(名詞)が本体の形で、名詞部分が省略されて全体が副詞的慣用句として使われるようになったものです(本来ならWeiseが女性名詞なのでderが正しい)。
副詞的表現の例 ※ポイント:「am + 最上級(-en)」はほぼ固定表現で、どの名詞が元々あったかは意識されません。
表現 意味 元の形(名詞付き) 説明 am liebsten 一番好きに/最も好んで an der liebsten Weise
an der liebsten Art「Weise(方法)」や「Art(やり方)」が省略されて副詞化 am schönsten 一番美しく/最も素敵に an dem schönsten Ort
an der schönsten Weise「Ort(場所)」や「Weise」を省略 am meisten 一番多く/最も an der meisten Menge
an dem meisten Teil「Menge(量)」や「Teil(部分)」を省略 am besten 一番よく/最も適切に an dem besten Weg
an der besten Weise「Weg(道)」や「Weise」を省略 am schnellsten 一番速く an dem schnellsten Tempo
an dem schnellsten Weg「Tempo(速度)」や「Weg(方法)」を省略
近代以降は副詞的最上級として「am + 最上級(-en)」が標準化されました。そのため、現代の解釈では「demは形式的な名残り、(lieb)stenは副詞の最強変化」としています。
動詞句 動詞句は「動詞+助動詞」の形です。否定文ではnichtを動詞句の前に付けますが、V2ルールで動詞を移動させる時は最後尾の1語だけが移動します。
【助動詞(+補助動詞)の種類】
助動詞は以下の2種類があります。
- Modalverben(狭義の助動詞)
・意味をそえる(〜できる、〜しなければならない、など)
・不定詞と組み合わせて使う
一覧表
✅ ポイント
助動詞 現在形 例文 過去形 例文 接続法II 例文 dürfen
(〜してよい)ich darf Ich darf heute ins Kino gehen.
(私は今日映画館に行ってよい。)ich durfte Ich durfte gestern lange fernsehen.
(私は昨日長くテレビを見てよかった。)ich dürfte Ich dürfte hier nicht parken.
(ここに駐車してはいけないだろう。)können
(〜できる)ich kann Ich kann gut schwimmen.
(私は泳ぐのが得意だ。)ich konnte Ich konnte gestern nicht kommen.
(私は昨日来られなかった。)ich könnte Ich könnte dir helfen.
(君を助けられるだろう。)mögen
(〜が好き)ich mag Ich mag Schokolade.
(私はチョコレートが好きだ。)ich mochte Als Kind mochte ich Gemüse nicht.
(子どもの頃、私は野菜が好きではなかった。)ich möchte
(特別形)Ich möchte einen Kaffee.
(コーヒーを一杯いただきたい。)müssen
(〜しなければならない)ich muss Ich muss morgen früh aufstehen.
(私は明日早く起きなければならない。)ich musste Ich musste gestern viel arbeiten.
(私は昨日たくさん働かなければならなかった。)ich müsste Ich müsste jetzt eigentlich lernen.
(本当なら今勉強すべきだろう。)sollen
(〜すべき)ich soll Ich soll meine Hausaufgaben machen.
(私は宿題をするべきだ。)ich sollte Ich sollte gestern zum Arzt gehen.
(私は昨日医者に行くはずだった。)ich sollte Ich sollte mehr Sport treiben.
(私はもっと運動すべきだろう。)wollen
(〜するつもり)ich will Ich will heute lernen.
(私は今日勉強するつもりだ。)ich wollte Ich wollte als Kind Lehrer werden.
(私は子どもの頃、先生になりたかった。)ich wollte Ich wollte eigentlich helfen.
(本当は手伝いたかったんだ。)
・möchte は実際には mögen の接続法II から派生した特別な形で、「〜したい」という意味に定着しています。
・sollte / wollte は過去形と接続法IIの形が同じですが、文脈で意味が変わります。
- Hilfsverben(補助動詞)
・完了形・受動態・未来形を作るために使う基本動詞
・「意味を付け加える」のではなく、文の時制や態を作る役割
一覧表
✅ ポイント
助動詞 現在形 例文 過去形 例文 接続法I 例文 接続法II 例文 haben
(持つ / 完了形助動詞)ich habe Ich habe ein Buch.
(私は本を持っている。)ich hatte Ich hatte keine Zeit.
(私は時間がなかった。)ich habe Er sagt, er habe keine Angst.
(彼は、怖くないと言っている。)ich hätte Ich hätte gern einen Kaffee.
(コーヒーを一杯いただきたい。)sein
(〜である / 完了・受動助動詞)ich bin Ich bin müde.
(私は疲れている。)
Ich bin gefragt.
(私は(すでに)質問された状態だ。)ich war Ich war gestern krank.
(私は昨日病気だった。)ich sei Er sagt, er sei glücklich.
(彼は、幸せだと言っている。)ich wäre Wenn ich reich wäre, würde ich reisen.
(もしお金持ちなら、旅行するのに。)werden
(〜になる / 未来・受動助動詞)ich werde Ich werde Lehrer.
(私は先生になる。)
Ich werde gefragt.
(私は質問されている。)ich wurde Er wurde Arzt.
(彼は医者になった。)ich werde Er sagt, er werde bald kommen.
(彼は、すぐ来るだろうと言っている。)ich würde Ich würde dir helfen.
(私は君を助けるだろうに。)
・接続法I → 新聞や本などで「間接話法」によく出ます(特に sei, habe, werde が定番)。
・接続法II → 「もし〜なら…だろうに」という仮定の表現に必須。
・werden の接続法II(würde)は、他の動詞と組み合わせて「würde + 不定詞(原形)」で使うのが有名です。
助動詞の歴史
もともと「助動詞」として使われていたのではなく、「意味」と「形態」の特殊性を持つ動詞が後に助動詞的に使われるようになったのです。
印欧祖語の 「完了形」は本来「〜したことがある」「〜を知っている」という状態の表現でした。つまり最初は「知っている」「できる」「持っている力がある」といった状態や経験の動詞で、助動詞は存在していませんでした。
ゲルマン祖語の段階で、「完了形」の一部が「現在形」として再解釈され、過去現在動詞(Präteritopräsentia)という新しい動詞クラスが成立しました。この時点ではまだ「自立動詞」であり、典型的な意味は「知る」「力がある」「欠けている」「恐れる」などの状態動詞でした。
この段階ではもっと多くの過去現在動詞がありましたが、現代ドイツ語ではほとんど消滅しました。現代ドイツ語の助動詞がすべてここに属している他、wissenだけが例外的に独立動詞として属しています。
ゲルマン語以降(古高ドイツ語・古英語など)で徐々に助動詞的な用法が定着していきます。古高ドイツ語や古英語には、既に不定詞(動詞の不定形)を伴って能力・義務・許可などを表す用法が広がり、助動詞的性格が強まります。
印欧祖語の完了形の屈折では「一人称単数と三人称単数がもともと同じ語尾(ゼロ語尾、あるいは *-e)を取る場合が多かった」ため、過去現在動詞(=助動詞)は、現在形においても「一人称単数 = 三人称単数」の形を受け継いだのです。
その結果、現代ドイツ語では、
となりました。
- 普通の規則動詞は人称で語尾が違う
例:machen → ich mache / er macht- 助動詞(過去現在動詞)は同形
例:können → ich kann / er kann
英語とドイツ語の受動態の違い
言語 助動詞 意味・機能 例文 英語 be + 過去分詞 状態・受動 The door is closed. ドイツ語 werden + 過去分詞 行為受動
(=行われている動作)Die Tür wird geschlossen.
(=The door is being closed.)sein + 過去分詞 状態受動
(=結果状態)Die Tür ist geschlossen. 時制別の対応表
分類 時制 構文 例文
意味・ニュアンス英語構文
例文動作受動 現在形 wird + 過去分詞 Das Haus wird gebaut.
家は建てられている(建築中)am / is / are + being + 過去分詞
The house is being built.過去形 wurde + 過去分詞 Das Haus wurde gebaut.
家は建てられていた(当時)was / were + being + 過去分詞
The house was being built.現在完了形 ist + 過去分詞 + worden Das Haus ist gebaut worden.
家は建てられてしまった/建て終わったhas / have been + 過去分詞
The house has been built.過去完了形 war + 過去分詞 + worden Das Haus war gebaut worden.
家は建てられていた(過去のある時点までに)had been + 過去分詞
The house had been built.未来形 wird + 過去分詞 + werden Das Haus wird gebaut werden.
家は建てられるだろう(未来)will be + 過去分詞
The house will be built.状態受動 現在形 sein + 過去分詞 Das Haus ist gebaut.
家は建っている(完成した状態)be + 過去分詞
The house is built.過去形 war + 過去分詞 Das Haus war gebaut.
家は建っていた(完成していた状態)was / were + 過去分詞
The house was built (already).【助動詞に似た知覚動詞】
助動詞のように動詞が連結できるのが知覚動詞です。
知覚動詞は英語と同様に「目的語+不定詞(ただしzuなし)」を取ることがあり()、結果的に助動詞の形になります。
※ 英語ほど柔軟ではなく、dass節()を使う動詞の方が多いので注意が必要です。
代表的な知覚動詞 使役動詞
ドイツ語 意味 sehen 見る hören 聞く fühlen 感じる spüren 感じ取る riechen においを感じる schmecken 味を感じる
ドイツ語 意味 lassen させる helfen 手伝う
I want you to go 型がドイツ語で成立しない歴史的背景
- 古いゲルマン語の不定詞の性質
ゲルマン祖語では、不定詞は名詞に近い形(動作名詞)であり、「目的語+不定詞」はほぼありませんでした。
つまり「〜すること」という意味なので「私は歩くことを望む(Ich will gehen.)」のような構造しか作れませんでした。「私はあなたが歩くことを望む」のように主語を伴う不定詞句は作れませんでした。- 英語だけが発達させた構文
英語では中世以降、ラテン語文法の影響を強く受けました。ラテン語には有名な構文「対格+不定詞」があります。
この構文は(英語で言うと)see、hear、believe、wantなどで使えます。英語はこれと非常に似た構文を発達させて、「対格+不定詞」を広く使える言語になりました。- ドイツ語は古いゲルマン構造を維持
ドイツ語は「対格+不定詞」をほとんど採用せず、一部の動詞(知覚動詞、使役動詞)だけに不定詞構文が許されています。
「want(に相当するドイツ語はwollen)」で「対格+不定詞」が使えない理由は、「want(wollen)」が知覚でも使役でもないからです。「望む」のは「心の中の状態」や「実際に観察できない状態」であるため、ドイツ語ではdass節(文章)として扱う必要があります。
ただし例外もあります。
以下はかなり特殊で、
Ich glaube dich kommen zu sehen. 普通はdass節になります。
Ich glaube, dass du kommst. - 英語にも残る違い
実は英語でも意味は少し違います。
例文 意味 I see you walk. 習慣・事実 I see you walking. 今見ている I want you to walk. 命令・要求
なぜ英語だけが発達させたのか? 英語がヨーロッパ言語の中でも「to不定詞」をここまで発達させたのは「中英語の大変化(フランス語の影響)」が関わります。
「Ich(主語) sehe(知覚動詞) | dich(目的語) | gehen(不定詞).」は、歴史的にはゲルマン祖語の動詞連結構造の名残とも言われています。
昔の構造は「見る + 行く」のように二つの動詞がそのまま並ぶ形でした。
SOV:Ich(主語) sehe(動詞) [dich(主語) | gehen(述語)](目的語).
意味は「見る → 行くのを」という感じです。
つまり元々は「私は見る ― あなた行く」のような二つの出来事の並置でした。
似た構造は現代ドイツ語にも残っており、
Ich lasse dich gehen.なども同じ歴史的構造です。
(あなたを行かせる)
Ich helfe dir tragen.(古風)
(運ぶのを手伝う)
dass節とは意味のニュアンスも少し違います。
ラテン語にも同じ構文があり、英語はこのラテン語構文の影響(フランス語経由)で広く使うようになったと言われています。
- 不定詞構文(直接知覚)
Ich sehe dich gehen.
→ 歩いているのを直接見た- dass節(判断・認識)
Ich sehe, dass du gehst.
→ 歩いていることが分かる
ドイツ語は、「元のゲルマン構造は残ったが拡張はしなかった」という状態です。
【動詞の屈折】
動詞は主語の人称によって語尾変化(屈折)しますが、「2人称複数と3人称単数」と「1人称複数と3人称複数」が同形になっています。
歴史的解説
という経緯です。
- 印欧祖語の動詞はすべての人称・数で明確に区別
- ゲルマン祖語になるときに語尾が大きく摩耗していき、「-t 系」(2複と3単)と「-m / -n 系」(1複と3複)にまとまり始めました
- 古高ドイツ語(8〜11世紀ごろ)は辛うじて区別は維持されていました
- 中高ドイツ語(11〜14世紀)以降、語尾母音が弱化して消滅し、1複と3複が -en に、2複と3単が -et に合流しました
- 現代ドイツ語(新高ドイツ語)では -et ⇒ -t (2複と3単)と語尾母音が弱化して消滅しました
例:「singen」の屈折の変遷 補足:ゲルマン祖語のþはth音(英語が継承)
歴史
\
人称印欧祖語
(sengʷʰ-)ゲルマン祖語
(singwaną)古高ドイツ語
(singan)中高ドイツ語
(singen)新高ドイツ語
(singen)1単 sengʷʰ-mi singwō singu singe singe 2単 sengʷʰ-si singwis singis singest singst 3単 sengʷʰ-ti singwiþ singit singet singt 1複 sengʷʰ-més singwum singemēs singen singen 2複 sengʷʰ-té singwþ singet singet singt 3複 sengʷʰ-énti singwunþ singent singen singen
注意:印欧祖語やゲルマン祖語の形は比較再建形ですのであくまで学術的に再構された仮説的なものです。
余談:ちょっと詳しく
「ドイツ語の動詞の屈折がどうして今のような形になったのか」というのは、印欧語学や歴史言語学の中心的なテーマのひとつです。
- 出発点:印欧祖語の屈折
- ドイツ語を含むゲルマン語派は、印欧祖語の動詞屈折を受け継いでいます
- PIE の動詞には、人称・数の区別(1・2・3人称、単数・複数)、態(能動・中動)、時制・相(現在/過去・完了など)、法(直説・接続・命令)、という複雑な体系がありました
- 語尾は -mi, -si, -ti のような「人称語尾」によって形が決まり、これが後のドイツ語の語尾の源流です
- ゲルマン祖語での再編成
- 大母音推移や ゲルマン子音推移(グリムの法則) によって形が音声的に変化
- 印欧祖語の「アオリスト(瞬間相)」「未完了」「完了」などの区別が崩れ、二時制体系(現在と過去) に単純化
- 強変化動詞(不規則動詞)は、印欧語の「アブロータ(母音交替)」を保存
- 弱変化動詞(規則動詞)は、dentalsuffix(t/d) を過去語尾につけることで新しく作られました(例:machen – machte – gemacht)
- 古高ドイツ語から中高ドイツ語
- ゲルマン祖語の形が地域ごとに分かれていき、古高ドイツ語で体系が整理
- 強変化動詞(母音交替)、弱変化動詞(t/d 過去)、不規則動詞(sein, haben, wissen など)、の3つの分類が成立
- 中高ドイツ語になると屈折語尾が次第に摩耗していき、現在のドイツ語に近い形(例:二人称単数の -est, 複数 -en など)が定着
- 現代ドイツ語への流れ
- 音の消失や短縮が進み、語尾はさらに単純化
例えば、古高ドイツ語 wir machen → 中高ドイツ語 wir machen → 現代 wir machen のように -en が残ったのは複数語尾として安定したから- 単数の1人称語尾は短くなり(ich mache)、動詞の「語尾」よりも「主語の代名詞」が人称を示す役割を強く担うように変化
【動詞の過去形と過去分詞と接続法】
過去形と過去分詞 英語では過去形と過去分詞(過去完了)は明確に意味を使い分けていますが、ドイツ語ではどちらも「過去」を表します。
過去形が主に書き言葉(文学、新聞、歴史の記述など)で使われるのに対して、過去分詞は日常会話で「~した」と言うときに使います。
ただし、日常会話でも sein、haben、助動詞(dürfen, können, müssen…)は過去形を使います。
過去分詞は「ge- + 語幹 + -(e)t / -en」の形態が基本ですが(規則動詞=弱変化動詞)、以下の通り多数の不規則変化(不規則動詞=強変化動詞)もクラス分けが成されています。
【不規則ではない不規則動詞】
英語やドイツ語は「規則動詞と不規則動詞」と大別して指導しますが、言語学者であるヤーコプ・グリムは不規則動詞をさらに分類しています。
現在、ドイツ語学や英語史で「強変化動詞の7クラス」と呼ばれる分類はヤーコプ・グリムによる整理に由来します。ヤーコプ著 『ドイツ文法(Deutsche Grammatik,1819-1837)』 の中で、ゲルマン諸語(古高ドイツ語、古英語、古ノルド語など)の動詞の活用を比較研究しており、母音交替(アプラウト) を体系的に分析・整理しました。
クラス
(原形/過去/過去分詞)例 クラス I
(ī – ai – i)
原形がei(古くはī)系の音を持つbleiben – blieb – geblieben
schreiben – schrieb – geschrieben
reiten – ritt – gerittenクラス II
(ie / eu – o – o)biegen – bog – gebogen
fliegen – flog – geflogen
ziehen – zog – gezogenクラス III
(i / e – a – u)finden – fand – gefunden
singen – sang – gesungen
trinken – trank – getrunken
helfen – half – geholfenクラス IV
(e – a – o)nehmen – nahm – genommen
sprechen – sprach – gesprochen
brechen – brach – gebrochen
stehlen – stahl – gestohlenクラス V
(e – a – e)
現在形と過去分詞で e に戻るgeben – gab – gegeben
lesen – las – gelesen
sehen – sah – gesehen
essen – aß – gegessenクラス VI
(a – u – a)
現在形と過去分詞が同じ母音fahren – fuhr – gefahren
tragen – trug – getragen
laden – lud – geladen
graben – grub – gegrabenクラス VII
(重複型・歴史的に特殊)
現代語では不規則化しているものが多いfallen – fiel – gefallen
halten – hielt – gehalten
rufen – rief – gerufen
gehen – ging – gegangen
stehen – stand – gestanden
この分類はゲルマン諸語全般に適用でき、英語の不規則動詞にも後継の研究者が適用しています。
規則性には気付いていてモヤモヤしていた単語が多いのではないでしょうか?
◆英語の不規則動詞の分類
(現在形・過去形・過去分詞の変化)
クラス 例 クラス I
(ī – ā – i – i)write – wrote – written
ride – rode – ridden
drive – drove – drivenクラス II
(ie/eo – ea – u/o – o)choose – chose – chosen
freeze – froze – frozen
lose – lost – lost(後に形が簡略化)クラス III
(i – a – u)sing – sang – sung
begin – began – begun
drink – drank – drunk
ring – rang – rung
swim – swam – swumクラス IV
(e – a – o – o)bear – bore – borne
break – broke – broken
steal – stole – stolen
speak – spoke – spokenクラス V
(e – a – e – e)give – gave – given
see – saw – seen
eat – ate – eatenクラス VI
(a – o – a – a)shake – shook – shaken(母音交替が崩れた例)
stand – stood – stood(特殊化した例)クラス VII
(重複による → 母音交替が曖昧に)fall – fell – fallen
hold – held – held
let – let – let(重複の消失で短化)
また、単独では使えず、助動詞(haben / sein)と組み合わせて完了形を作ります。
(参考:【完了形のhaben(ドイツ語)とhave(英語)】)
用途 形式 例文 現在完了
(Perfekt)主語 + 助動詞(haben/seinの現在形) + 過去分詞 Ich habe das Buch gelesen.(私はその本を読んだ)
Ich bin nach Berlin gefahren.(私はベルリンへ行った)過去完了
(Plusquamperfekt)主語 + 助動詞(haben/seinの過去形) + 過去分詞 Ich hatte das Buch gelesen.(私はその本を読んでいた)
Ich war nach Berlin gefahren.(私はベルリンへ行っていた)未来完了
(Futur II)主語 + werden(未来形) + 過去分詞 + haben/sein(不定形) Ich werde das Buch gelesen haben.(私はその本を読み終えているだろう)
Ich werde nach Berlin gefahren sein.(私はベルリンへ行ってしまっているだろう)
ここで助動詞(haben / sein)の選び方には決まりがあります。
なお、 「同じ動詞でも意味によって助動詞が変わるケース」もあるので下表にまとめます。
- haben:他動詞、状態動詞、日常動作などの「誰か/何かに作用を及ぼす動作」や「運転・操作」
- sein:移動・状態変化の自動詞で「自分の移動」や「状態の変化」
動詞 助動詞 用法・意味 例文 essen haben 他動詞(目的語をとる動詞) Ich habe frühstück gegessen.(私は朝食を食べた) schlafen haben 状態を表す多くの動詞 Ich habe geschlafen.(私は寝た) gehen sein 移動を表す動詞(行く・来る・入る・出る など) Ich bin nach Hause gegangen.(私は家に帰った) storben sein 状態の変化を表す動詞(起きる・死ぬ・成長する など) Mein Großvater ist gestorben.(祖父は亡くなった) einschlafen sein Das Kind ist eingeschlafen.(子供は眠りについた) öffnen sein 状態変化 Das Fenster ist geöffnet.(窓が開いた) haben 他動詞 Ich habe das Fenster geöffnet.(私は窓を開けた) fahren
(行く/運転する)sein 自分が「移動する」場合 Ich bin nach Berlin gefahren.(私はベルリンへ行った) haben 乗り物を「運転する」場合 Ich habe das Auto gefahren.(私は車を運転した) fliegen
(飛ぶ/飛ばす)sein 自分が「飛んで移動する」場合 Der Vogel ist nach Süden geflogen.(鳥は南へ飛んだ) haben 飛行機を「操縦する」場合 Er hat das Flugzeug geflogen.(彼は飛行機を操縦した) hängen
(掛かっている/掛ける)sein すでに「掛かっている」状態に到達(結果) Das Bild ist an der Wand gehangen.(その絵は壁に掛かっていた) haben 物を「掛ける」動作 Ich habe das Bild an die Wand gehangen.(私はその絵を壁に掛けた) springen
(跳ぶ/跳ばす)sein 自分が「飛び移動」する Das Kind ist ins Wasser gesprungen.(子供は水に飛び込んだ) haben 誰かを「飛ばせる/跳ばす」動作 Der Trainer hat ihn springen lassen.(コーチは彼を飛ばせた) steigen
(昇る/乗る)sein 上下・乗り移動の完了 Er ist aufs Dach gestiegen.(彼は屋根に登った) haben 価格・温度などが「上げる」 Die Bank hat die Zinsen gesteigert.(銀行が金利を上げた)
接続法 「接続法(Konjunktiv)」は、日本語では「間接話法(接続法I)」「仮定法(接続法II)」と訳した方が分かりやすいかもしれません。
- 接続法I
話者が自分の意見ではなく、「他人が言ったこと」を伝えるときに使う。
・直接話法:Er sagt: „Ich bin müde.“(彼は言う:「疲れている」)
・間接話法:Er sagt, er sei müde.(彼は「疲れている」と言っている)
- 接続法II
実際には起こっていないこと、あり得ないこと、または丁寧な依頼を表す。
・仮定:Wenn ich Zeit hätte, würde ich reisen.(もし時間があれば、旅行するのに)
・願望:Ich wünschte, ich könnte fliegen.(飛べたらいいのに)
・丁寧依頼:Könnten Sie mir helfen?(助けていただけますか?)
基本的にすべての動詞に「接続法 I / II」の形が存在しますが(原理的には可能)、実際には「sein/haben/werden + 他の主要動詞」が多用されます。接続法 IIではこれに助動詞(dürfen, können, mögen, müssen, sollen, wollen)も加わります。
【助動詞の屈折(語尾変化)とwissen】
助動詞(können, müssen, dürfen, sollen, wollen, mögen)も動詞と同じように人称によって語尾が変化します。いずれも一人称複数と三人称複数は同じですが、助動詞では一人称単数と三人称単数も同じになる点が特徴的です。これは偶然ではなく、ゲルマン祖語の動詞屈折体系に由来します。
まずは各助動詞の屈折を示します。
助動詞の屈折 ✅ ポイント
助動詞 人称 直説法 現在形
(Präsens Indikativ)直説法 過去形
(Präteritum Indikativ)接続法Ⅰ
(Konjunktiv I)接続法Ⅱ
(Konjunktiv II)können
(〜できる)ich kann konnte könne könnte du kannst konntest könnest könntest er/sie/es kann konnte könne könnte wir können konnten können könnten ihr könnt konntet könnet könntet sie/Sie können konnten können könnten müssen
(〜しなければならない)ich muss musste müsse müsste du musst musstest müssest müsstest er/sie/es muss musste müsse müsste wir müssen mussten müssen müssten ihr müsst musstet müsset müsstet sie/Sie müssen mussten müssen müssten dürfen
(〜してよい)ich darf durfte dürfe dürfte du darfst durftest dürfest dürftest er/sie/es darf durfte dürfe dürfte wir dürfen durften dürfen dürften ihr dürft durftet dürfet dürftet sie/Sie dürfen durften dürfen dürften sollen
(〜すべきだ)ich soll sollte solle sollte du sollst solltest sollest solltest er/sie/es soll sollte solle sollte wir sollen sollten sollen sollten ihr sollt solltet sollet solltet sie/Sie sollen sollten sollen sollten wollen
(〜したい)ich will wollte wolle wollte du willst wolltest wollest wolltest er/sie/es will wollte wolle wollte wir wollen wollten wollen wollten ihr wollt wolltet wollet wolltet sie/Sie wollen wollten wollen wollten mögen
(〜が好きだ/〜かもしれない)ich mag mochte möge möchte du magst mochtest mögest möchtest er/sie/es mag mochte möge möchte wir mögen mochten mögen möchten ihr mögt mochtet möget möchtet sie/Sie mögen mochten mögen möchten
・1人称単数と3人称単数が同形(Präteritopräsentiaの特徴)。
・接続法Ⅱでは多くの場合「-te-」が挿入され、独自の形ができる(könnte, müsste, dürfte, möchte)。
・mögenは特に「möchte(〜したい)」の形が現代ドイツ語で頻用される。
助動詞ではないが同じ屈折をする動詞
動詞 人称 直説法 現在形
(Präsens Indikativ)直説法 過去形
(Präteritum Indikativ)接続法Ⅰ
(Konjunktiv I)接続法Ⅱ
(Konjunktiv II)wissen
(知っている)ich weiß wusste wisse wüsste du weißt wusstest wissest wüsstest er/sie/es weiß wusste wisse wüsste wir wissen wussten wissen wüssten ihr wisst wusstet wisset wüsstet sie/Sie wissen wussten wissen wüssten
補助動詞の屈折 ※ sein の補足
補助動詞 人称 直説法 現在形 直説法 過去形 接続法Ⅰ 接続法Ⅱ haben
(持つ)ich habe hatte habe hätte du hast hattest habest hättest er/sie/es hat hatte habe hätte wir haben hatten haben hätten ihr habt hattet habet hättet sie/Sie haben hatten haben hätten sein
(〜である・〜にいる)ich bin war sei wäre du bist warst seiest wär(e)st er/sie/es ist war sei wäre wir sind waren seien wären ihr seid wart seiet wär(e)t sie/Sie sind waren seien wären werden
(〜になる/受動態・未来の助動詞)ich werde wurde werde würde du wirst wurdest werdest würdest er/sie/es wird wurde werde würde wir werden wurden werden würden ihr werdet wurdet werdet würdet sie/Sie werden wurden werden würden
※ werden の接続法Ⅱ「würde」は他の動詞の仮定法にも使われます(例:Ich würde gehen = 私は行くだろう)。
- 完了形では「ich bin gewesen」
- 接続法IIの完了は「ich wäre gewesen」
- 命令形は「du形 sei!」「ihr形 seid!」「Sie形 seien Sie!」がよく使われます
- 「sein wir!」は非常に文語的で、実際にはほとんど使いません
【続・名詞の動詞化:日本語の「ググる」はドイツ語で何?】
日本語には「ググる、バグる、ディスる」などの外来語(や略語)に「る」を付けて動詞化する若者言葉(造語、俗語)があります。
これはドイツでも同じで、SNSやデジタル文化で登場する新しい技術に対して、「~ en」による名詞の動詞化で必要となる動詞がネットスラング的に作られているようです。
実際に使われる・使われた造語
造語 元の名詞 意味・ニュアンス 備考 facebooken フェイスブックを使う 実際に定着して辞書にも載った例 whatsappen WhatsAppでメッセージする 若者言葉の典型。動詞化の自然例。 snapchatten Snapchat スナップチャットする SNS名に -en を付けるのは一般的 googlen / googeln 検索する 最初はスラング、今は標準化された動詞 texten Text メッセージを送る・歌詞を書く 古くからあるが「SMSを送る」の意味で再生産された skypen Skype スカイプする IT時代の動詞化 grillen Grill バーベキューする もともと借用語ながら「名詞→動詞」化の典型 shoppen Shop 買い物をする 若者語で広く定着 chillen Chill くつろぐ 英語 chill からの借用+ -en 動詞化 biken Bike バイクに乗る 英語からの名詞動詞化 tindern Tinder ティンダーを使う アプリ名からの造語(よく使われる) zoom(en) Zoom Zoomで会議する コロナ期以降の新語 selfien Selfie 自撮りする ネットスラング寄り、ユーモラスに使われる instagrammen インスタする 冗談・会話レベルでよく使われる
【疑問文と命令文】
疑問文 疑問文には大きく2種類あり、それぞれ語順のルールが違います。
- はい/いいえで答える疑問文(Entscheidungsfrage)
V1ルール(屈折する動詞が文頭)で、主語はその直後に来るのが基本です。例:
Kannst du Deutsch sprechen? (ドイツ語を話せるかい?)
Hast du Hunger? (お腹すいてる?)- 疑問詞疑問文(Ergänzungsfrage)
疑問詞(wer, was, wo, wann, warum, wie …)を文頭(1番目)としてV2ルールが適用されます。例:主語は必ずしも動詞の直後ではなく、V2ルールに従った倒置強調もできます。
Wann musst du nach Hause gehen? (いつ帰らないといけないの?)
Wo soll ich warten? (どこで待てばいい?)例:
Warum hat gestern dein Bruder das Fenster geöffnet?(なぜ昨日、君の兄が窓を開けたの?)
疑問詞(1)→動詞(2)→時の副詞(3)→主語(4)→目的語(5)
命令文 命令文(Imperativ)は2人称単数/複数が基本です。
ただし、丁寧形(Sie)と1人称複数(wir)も「動詞の不定形 + 主語 ~」の形が命令文(前者は「どうぞ〜してください」、後者は「〜しよう!」という勧誘的命令文)とされています。これらは疑問文と同じ形になる上、文末のイントネーション(文章なら!/?の有無)で区別するだけの相違ですので以降では割愛します。
命令文では動詞が文頭に来て(V1ルール)、否定は nicht や kein を後ろに付けます。
2人称の命令文
人称 動詞の命令形 例 単数
(du)・現在形の du-形(語尾 -st)の語尾を落として語幹のみを使う(多くの場合は -e も省略可⇒後述)。
・主語「du」は付けない・spielen → Spiel! (遊べ!)
・warten → Warte! (待て!)
・essen → Iss! (食べろ!)
・lesen → Lies! (読め!)複数
(ihr)・現在形の ihr-形(語尾 -t)をそのまま使う
・主語「ihr」は省略する・spielen → Spielt! (遊べ!)
・warten → Wartet! (待て!)
・essen → Esst! (食べろ!)
以下の特例があります。
- 不規則動詞は母音交替(e → i / ie など)が起こる(例: lesen → Lies!)
- 「du」形で母音変化しても -st がない形になる
- 「sein」は特殊:
・ du: Sei!
・ ihr: Seid!
・ Sie: Seien Sie!
- 助動詞と一緒に使う事は基本的にできない⇒後述
du形で -e が残る動詞一覧
グループ 理由 不定形 命令文(du形) 語幹が -t, -d で終わる 子音が重なり、-e がないと発音しにくい arbeiten Arbeite! warten Warte! reden Rede! baden Bade! 語幹が -m, -n + 子音 語尾処理で発音を助けるため -e 必要 atmen Atme! öffnen Öffne! rechnen Rechne! zeichnen Zeichne! 一部の不規則動詞(特に「命令形が短すぎる場合」) 意味を明確にするために -e を残すことがあるが、実際の会話では -e を落とす方が多い。
なお、辞書や文法書では -e を付けた形が「正しい命令文」として示されている。nehmen Nimm(e)!
(ただし「Nimm!」が普通)geben Gib(e)!
(通常「Gib!」)treten Tritt(e)!
(通常 Tritt!)
助動詞(dürfen, können, müssen, sollen, wollen など)は命令形そのものを持たないため、命令文を直接作れません。
代わりに、命令や依頼を表すには「不定詞構文」や「周辺表現」を使います。
- 「zu + 不定詞」構文
助動詞のない命令文「Sei leise!(静かにしろ!)」を「静かにできるようにしろ」という意味で表現したいときは以下のようにします。
Versuche, leise zu sein!
(静かにするように努めろ!)- 助動詞 + 不定詞 の代替的命令
助動詞を含む文「Du musst kommen!(来なければいけない)」を命令形にしたいなら以下のようにします。
Komm unbedingt!
(必ず来い!)- 固定表現で命令に近い用法
一部の助動詞は慣用的に命令のような言い方をします:
Soll ich…? (〜しましょうか?)
Du sollst…!(〜すべきだ! → 強い命令口調)【否定文(nichtの位置)】
否定文を作るnichtの位置は明確で単純なルールに従っています。
- nichtは否定したい語句の前に置く
- 文全体を否定したい場合はnichtを動詞句の前に置く
(英語の「don't + 動詞」と同じ)- これらをSOVで配置した後に、主文ならV2ルールを適用する
z. B. : Er steht nicht auf, weil er nicht aufsteht.例文(SOV⇒V2) ※ sein/haben/助動詞 は目的語を否定する(nicht/kein)のが一般的で、動詞そのものを否定する事はありません。
SOV V2(主文に変換) 意味 Ich nicht komme. Ich komme nicht. 私は来ません。 Er nicht aufsteht. Er steht nicht auf. 彼は起きない。 Ich das Buch nicht gelesen habe. Ich habe das Buch nicht gelesen. 私はその本を読まなかった。 Er nicht müde ist. Er ist nicht müde. 彼は疲れていない。 Er nicht in Berlin wohnt. Er wohnt nicht in Berlin. 彼はベルリンに住んでいない。 Ich nicht einen Hund, sondern eine Katze habe. Ich habe nicht einen Hund, sondern eine Katze. 私は犬を飼っていない、猫を飼っている。 Wir nicht heute ins Kino gehen. Wir gehen nicht heute ins Kino. 私たちは今日は映画館に行きません。 【便利なbitte】
日本語の「どうも」のように多目的な言葉「bitte」。
bitte の用法まとめ
用法 ニュアンス 例文 日本語訳 英語訳 命令文 最初 前置き的に丁寧に響く Bitte setzen Sie sich. どうぞお座りください。 Please sit down. 中間 自然で日常的な「〜してくれる?」程度の依頼 Öffnen Sie bitte das Fenster. 窓を開けてください。 Please open the window. 最後 依頼を和らげたり念押し Setzen Sie sich, bitte. お座りくださいね。 Sit down, please.
Do sit down.「どうぞ」
(勧める)物を差し出す時の常套句 Hier, bitte. はい、どうぞ。 Here you are.
There you go.「お願いします」 注文や依頼で定番 Eine Cola, bitte. コーラをお願いします。 A coke, please. 「どういたしまして」 Danke への返答 Danke!
Bitte!ありがとう!
どういたしまして。Thanks!
You’re welcome.「えっ?」
(聞き返し)聞き返しの軽い表現 Bitte? えっ?
何ですか?Pardon?
Sorry?丁寧な依頼の副詞 文中で「please」に相当 Könnten Sie mir bitte helfen? 手伝っていただけませんか。 Could you please help me?
補足:bitteの位置
bitteは補語ではなく、モダル小詞/副詞的挿入語なので「基本ルール+語用論(丁寧さ・焦点)」で位置が選ばれます。
nichtとの関係(nichtは否定対象の直前あるいは文末寄り/bitteはその外側)は混同しやすいので混在するときは注意が必要です。
例:Bitte kommen Sie nicht zu spät.
- 動詞の直後(Mittelfeld)
Komm bitte her.
Geben Sie bitte Ihren Ausweis ab.
👉 教科書的・丁寧・万能。
- 文頭・文末の場合はニュアンス差が生じます。
Öffnen Sie bitte das Fenster.(標準)
Bitte öffnen Sie das Fenster.(案内・掲示)
Öffnen Sie das Fenster, bitte.(お願い感強め)
- Bitte + 文.(やや強調・依頼)
Bitte kommen Sie herein.
Bitte nicht rauchen.
👉 公共表示・アナウンス向き。
- 文, bitte.(口語・柔らかい)
Komm her, bitte.
Hilf mir, bitte.
👉 子ども・親しい相手・感情表現。
- できない/不自然になりやすい位置
V2 を壊す位置・分離動詞の中はNGとなります。
- 動詞の前(V2 を壊す)
❌ Ich bitte komme morgen.
※これは **bitten(動詞)**に見えてしまう。
- 分離動詞の間に割り込む
例:ankommenの命令文
❌ Komm an bitte.
⇒ Komm bitte an.
⇒ Bitte komm an.
V2ルール V2ルールは「主語によって変化する動詞(1単語)を2番目(最初の句の次)に置く」というだけです。
その他の順序は変化しない上、主文のみの規則で、従属節には適用されません。英語のように全ての文で「助動詞+動詞」が2番目に来る言語をイメージしてしまうと混乱の元です。
【V2ルールの覚え方】
必要なのは、まずSOV の語順、次にSOVにV2ルールを適用する手順を覚えることであって、SVO(英語の語順)を意識する必要はありません。
分離動詞(aufstehen)を使って例文を示します。
参考:英単語との対応(Ich = I、aufstehen = stand up、heute = today、um 6 Uhr = at 6 am)
現在形:今朝6時に起きる。
SOV:Ich heute um 6 Uhr aufstehe.
V2:Ich stehe heute um 6 Uhr auf.
助詞(müssen)+現在形:今朝6時に起きなければならない。
SOV:Ich heute um 6 Uhr aufstehen muss.
V2:Ich muss heute um 6 Uhr aufstehen.
過去分詞による過去形:今朝6時に起きた。
SOV:Ich heute um 6 Uhr aufgestanden bin.
V2:Ich bin heute um 6 Uhr aufgestanden.
(助詞(müssen)+現在形)の過去形:今朝6時に起きなければならなかった。
SOV:Ich heute um 6 Uhr aufstehen müssen habe.
V2:Ich habe heute um 6 Uhr aufstehen müssen.
※SOVの最後の単語がV2では2番目に来るという理解でOK。
従って、「主文(V2)+何故なら(weil)+従属節(SOV)」という文を作るなら、以下のようにするだけです。
Ich bin heute um 6 Uhr aufgestanden, weil ich heute um 6 Uhr aufstehen müssen habe.
(今朝6時に起きた、何故なら今朝6時に起きなければならなかった。)
「~なので(weil)+従属節(SOV)+主文(V2)」という文を作るなら、以下のようにするだけです。
Weil ich heute um 6 Uhr aufstehen müssen habe, bin ich heute um 6 Uhr aufgestanden.
(今朝6時に起きなければならなかったので、今朝6時に起きた。)
従属節("Weil ~ habe")が1番目となるので、主文の動詞("bin")の位置が変わります。
以下は文法学習用であり、müssenが過去分詞ではなく不定形というのがポイントです。
Ich bin heute um 6 Uhr aufgestanden, weil ich heute um 6 Uhr aufstehen müssen habe.
口語なら単に過去形を使うようです。
~, weil ich heute um 6 Uhr aufstehen musste.
【接続詞とまぎらわしい副詞(+カンマの使い方)】
文の構造は以下です。
ここでV2はSOVにV2ルール(主語によって変化する動詞を2番目に置く)を適用した文を指します。
- ドイツ語:主文(Hauptsatz、V2)+従属節(Nebensatz、接続詞+V2またはSOV)
- (参考)英語:主文(SVO)+従属節(接続詞+SVO)
つまり、ドイツ語の接続詞は大きく分けると
に分かれます。さらに接続詞のように見える接続副詞があるので注意が必要ですが、こちらは副詞なので文頭で使われますが次は動詞(V2)になります。
- V2が続くもの(等位接続詞):主文+接続詞+主文(V2)
- SOVが続くもの(従属接続詞):主文+接続詞+副文(SOV)
「節だからカンマ」
従属節(従属接続詞を使った文)の場合、主文とカンマで区切るという単純なルールがあります。
※ 等位接続詞や接続副詞はカンマなし(原則)ですが等位文の区切りとして入れます。
- 主節(V2) , 従属節.
- 従属節 , 主節(V2で動詞が先頭).
- 主節(V2)の前半 , 関係節 , 主節の後半.
分類 接続詞 意味 文の語順 等位接続詞
(Nebenordnende Konjunktionen)und そして V2 oder または aber しかし denn なぜなら sondern [V2の否定文]ではなくて、むしろ[単語/V2節] 従属接続詞
(Subordinierende Konjunktionen)weil なぜなら SOV dass …ということ ob …かどうか wenn もし…なら/…するとき falls もし…なら obwohl …にもかかわらず damit (接続詞として使う場合)
…するためにsobald …するとすぐに solange …する間 bevor …する前に nachdem …した後で seit / seitdem …以来 bis …まで während …している間に/一方で 関係節
(Relativsatz)der
die
das
welcher
など(関係代名詞) SOV まぎらわしい
接続副詞
(Konjunktional
adverbien)also それゆえ、だから V2 deshalb
deswegen
darum
daherだから、そのために demnach したがって(書き言葉的) folglich したがって(論理的に) trotzdem それにもかかわらず dennoch それにもかかわらず(やや硬い) jedoch しかしながら außerdem そのうえ、さらに ferner さらに(書き言葉) überdies そのうえ(書き言葉・強調) dann それから、そのとき danach その後で zuvor その前に inzwischen
mittlerweileその間に、その一方で sonst さもなければ 【助動詞と再帰代名詞とV2(とグリム童話)】
V2ルールでは「副詞+動詞+主語~」の語順になるのが一般的ですが、グリム童話等の場合には注意点があります。
動詞が単純現在形や過去形では「副詞+動詞+主語+sich~」の順(例:Heute fühlt er sich wohl.)ですが、助動詞構文・未来形・完了形では、「副詞+助動詞+sich+主語~」となる場合があります。これは「軽い語(sich)」を先に置くリズムのためと説明されています。
具体的には:
「sich」と主語を逆にできるかというと、現代ドイツ語では「やや不自然(文脈による)ながら可」ですが、文語としては散見されます。
- Dann hat sich Peter geirrt.
- Bald wird sich der Junge daran gewöhnen.
- Vorher hatte sich niemand darüber beschwert.
雑学 【言語の伝播】
ヨーロッパ言語は黒海北側あたりのインドヨーロッパ語族(以降、印欧祖語)まで遡ることができます。これが、「グリムの法則(第1次子音推移)」を経たゲルマン語が北西方向(ドイツ北部)へ、南西方向(ローマ付近)にはラテン語として広まります。
それに先立って(紀元前3千年頃)、ドナウ川に沿って西に向かった最初の集団が、この中間の地域(ドイツとフランス)を中心にしてヨーロッパを席巻し、後のケルト人となります。当初はケルト語がヨーロッパ中部の主要言語でしたが、ゲルマン語(ドイツ語)の南下、ラテン語(フランス語)の北上に伴ってケルト語はイギリス方面に追い出されてしまいます。つまりイギリスに最初に上陸したのはケルト語でした。
ゲルマン語は、オランダ付近に留まった低地ドイツ語、南下して第2次子音推移(例:maken⇒machen)を経た高地ドイツ語(後の標準ドイツ語)、オランダの南側を経由してイギリス(ブリテン島)まで伝わった英語、と分化していきます。さらに北上してノルド語にもなりますが、これにはデンマークの古東ノルド語とノルウェー方面の古西ノルド語に大別され、ヴァイキングの進出によって古東ノルド語はイングランド北東部へ、古西ノルド語はスコットランドへと広まります。
なお、低地ドイツ語はオランダでは標準化されてオランダ語となりますが、少し離れていたドイツ北部では口語として残っただけで、標準ドイツ語となる高地ドイツ語に置き換えられていきます。
一方のラテン語は、イタリア語、フランス語、スペイン語(これらを総称してロマンス語族)となります。この内、フランス語がノルマン征服(1066年)によってイングランドに持ち込まれます(ややこしい事にノルマン公国の人は元ヴァイキング)。
結局、印欧祖語は西方でいくつにも分裂しましたが、英語として再集結したことになります(文法は簡略化されましたが統合する過程で発音と表記が一致しない複雑な言語に変化してしまいました)。
【英語教育によるドイツ語の誤解】
日本人にとって外国語と言えば英語であり、ドイツ語テキストの多くは「英語話者がドイツ語を学ぶには」という視点で書かれています。
(日)私は•それを・することが・できる。
(英) I it do can.
(独) Ich es machen kann.
英語はSVOなので、助動詞+動詞を主語の次に置きます。
I can do it.
ドイツ語はV2ルールなので「主語によって変化する動詞」(ここではkann)を2番目に置きます。
Ich kann es machen.
これを英語基準で教えると「助動詞がある時は動詞を後ろに置く(I can it do.のイメージ)」という複雑な説明になりますが、これはV2ルールとは移動する単語と方向が逆になります。
その結果、「英語がSVOなのでドイツ語もSVOの亜流」と誤解したままの人がほとんどです。
英語が得意でない日本人学習者には「SVOを経由せず、日本語SOV感覚からドイツ語V2への変化を理解させる」方が「ゲルマン語からドイツ語の流れ」に近く自然に理解できるのです。
【ドイツ語の文法が英語より難しい理由】
ドイツ語の難しさの象徴となるのが、
・冠詞や形容詞の語尾変化
・名詞の種類(男性、女性、中性)と語尾変化
・動詞の語尾変化
・文(主節、従属節)による動詞の位置
と思われます。
これらの内、上3つはドイツ語が印欧祖語の流れを残しているのに対して、英語はノルド語との融合で簡略化されました。この点に関して英語が簡単なのは当然です。
ところが、英語では語尾変化を省略する過程で文中の単語の順番を規定したので、主節(SVO)+従属節(SVO)に統一されました。
注: 従属節はwhen、if、関係代名詞などに相当
それに対してドイツ語は変則的で、印欧祖語(SOV)の主節だけにV2ルールを適用した主節(V2)+従属節(SOV)であるという大前提を理解しておく必要があります。ドイツ語教育ではこれを十分に説明しないと混乱して挫折します(英語教育によるドイツ語の誤解)。
ちなみに印欧祖語では人称毎に動詞の語尾が違うため、主語を省略することもできたそうです。この辺りは日本語の主語省略と通じるものがあるかも知れません。つまり、基本となる構造は日本語と同じSOV形式なので、英語を基準とする学習より「主節にV2ルールが適用される日本語構造」と解釈した方が理解しやすいのです。
【低地ドイツ語と高地ドイツ語】
ドイツ語は南北で大きく分けられます。言語の流れで示した通り、北部にゲルマン語が入って来た後、南部に移動して高地ドイツ語(Hochdeutsch)が誕生しました。これが標準ドイツ語の基盤となっています。本サイトでも「古高ドイツ語」といった表現がでてきますが、区切り位置に注意です。
高地ドイツ語に対応するのが低地ドイツ語(Niederdeutsch)で、この地域では後に高地ドイツ語が標準語として再入することになります。ちなみにオランダ(die Niederlande)も低地ドイツ語を使っていた地域に含まれます。
低地ドイツ語は話者数は減っており、多くの人は標準ドイツ語との併用になっていますが、現在でも主にドイツ北部とオランダ北東部で実際に話されています。
低地ドイツ語が話されている主な地域
国 州 主な都市 方言名 ドイツ Schleswig-Holstein キール
リューベックNordniederdeutsch(北低地ドイツ語) Hamburg ハンブルク Hamburger Platt Niedersachsen(ニーダーザクセン州) ハノーファー
ブレーメン
オルデンブルクNiedersachsen-Platt Mecklenburg-Vorpommern ロストック Mecklenburgisch-Vorpommersch Brandenburg(北部) シュプレーヴァルト周辺 Märkisch(衰退中) オランダ Groningen
(フローニンゲン州)Gronings Drenthe
(ドレンテ州)Drents Overijssel
(オーファーアイセル州)Twents, Sallands Gelderland
(ヘルダーラント州)Achterhoeks
低地ドイツ語と高地ドイツ語の共通祖先となるゲルマン語はグリムの法則(第一次子音推移、【グリムの法則と英語の三単現のS】を参照)を経た所までは共通ですが、高地ドイツ語はその後の第二次子音推移(k ⇒ ch、等)で綴りや発音が変化しました。
machenの活用形
言語
\
用法高地ドイツ語 低地ドイツ語 オランダ語 英語 動詞の不定形 machen maken maken make 命令形(単) Mach! Mak! Maak! Make! 命令形(複) Macht! Makt! Maakt! (同上) 備考 k → ch の音推移あり 推移なし、kのまま 母音が長い(a→aa) 同系語
第二次子音推移の例
言語
\
意味ドイツ語 オランダ語 英語 する machen maken make 本 Buch boek book 乳/胸 Brust borst breast ことば sprechen spreken speak 持つ haben hebben have 【サンタクロースは Weihnachtsmann】
ドイツは様々な事が南北で分かれていますが、サンタクロースの呼び名も同じで、これには先ずキリスト教のカトリック(主に南部)とプロテスタント(主に北部、500年前のルター派)が影響しています。
それ以前(中世)のカトリック世界では、12月6日(聖ニコラウスの日)に「聖ニコラウスが子どもにお菓子や贈り物を届ける」という習慣が広く行われていました。前日の夜に長靴や靴下を出しておくと、朝にはプレゼントを受け取れるという形式でした。
これに対して16世紀、宗教改革(プロテスタント)でマルティン・ルターが聖人崇拝を避けるため「12/6の聖ニコラウス」ではなく「キリスト自身が贈り物をもたらす」という考えを提唱しました。そのため12/6(聖ニコラウスの命日」ではなく、12/24(クリスマスイブ)が贈り物をする日に変更されました。その贈り物をする存在は「幼子イエス(Christkind)」であり、後に擬人化して“天使の姿” に変化しました。
このプロテスタント派は主に北部で広がりましたが、クリスマスの行事は南部にも伝わりました。Christkindという表現はカトリック派でも受け入れやすく、聖ニコラウスともバッティングしないので、南部では現在でも両方の行事が行われるようです。
英米にはオランダ経由でカトリック派の「聖ニコラウスの日(12月6日)」が伝わりますが、クリスマス中心の文化だったため日付までは定着せず、クリスマスの行事として発展しました。
ドイツ北部ではアメリカ型のサンタクロース(イメージはコカ・コーラ社のCM「赤い服の太った老人」)が19世紀に逆輸入されて、宗教色のない「Weihnachtsmann(聖夜の男)」としてChristkindが置き換えられました。
このように19世紀末から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパ全体では「サンタクロース」という名称や存在自体は広く知られるようになりましたが、その出身地や住処については共通認識がありませんでした。
ややこしい事に、ここで登場するのがフィンランドです。
1917年に独立したフィンランドは「雪・北方・トナカイ」というサンタのイメージに合致する地理条件を持っていました。1927年に国営ラジオYLEのクリスマス放送(子ども向け番組)で、 人気ラジオ司会者Markus Rautioが子どもたちの質問に答える形で「サンタクロースはラップランドの コルヴァトゥントゥリ山に住んでいる」と語りました。国民的物語を必要としていた独立直後の国家にとって、打って付けの話題であり、ラジオという当時の新しい大衆メディアを通じて定着しました。また、宗教的対立とも衝突しなかったため次第に国際的にも受け入れられて、フィンランドが「サンタクロースの母国」と見なされるようになりました。【シュトレン(Stollen)の歴史】
- 起源:中世ドイツの「断食パン」
シュトレンの起源は14世紀ごろの中部ドイツ(ザクセン地方)に遡ります。
当初は、アドヴェント(待降節)の断食期間に食べられる質素なパンで、原材料は小麦粉・水・酵母・菜種油のみでした(バター・卵・牛乳は禁止)。味は淡泊で、現代の甘いシュトレンとは別物。
これは「キリスト降誕前は節制すべき」という中世カトリックの教えに基づくものです。- 転機:教皇の「バター許可状(1491年)」
ザクセン地方では菜種油が高価・不味という問題があり、1491年に諸侯たちは「せめてバターを使いたい」とローマ教皇に嘆願しました。
教皇インノケンティウス8世が特別に許可したバター・ブリーフ(Butterbrief)には、「バター使用の代償として教会への寄進」という条件が付いていました。
とは言え、これによってバター・砂糖・ドライフルーツ・香辛料が使えるようになり、現在の「豊かな菓子パン」としてのシュトレンが成立します。- ドレスデン・シュトレンの確立(16–17世紀)
シュトレンの名声を決定づけたのがドレスデンです。ザクセン選帝侯アウグスト強王の宮廷で発展し、レーズン・オレンジピール・シトロン・ナッツを多用という特徴があります。形は白布に包まれた幼子イエス(Christkind)を象徴しており、粉砂糖で白く覆うのもこれに由来しています。- 1730年:巨大シュトレンと祝祭化
アウグスト強王が催した祝宴で重さ 約1.8トン、専用ナイフまで作られた巨大シュトレンがきっかけとなって、「シュトレン=祝祭・クリスマス菓子」というイメージが確立します。- 近代以降:保護食品へ
20世紀になると、「ドレスデン・クリストシュトレン」はEUの地理的表示保護(g.g.A.)を取得し、原材料・製法・産地が厳格に規定されました。現在もドレスデンでは、年に一度 「シュトレン祭(Stollenfest)」が催され、巨大シュトレンのパレードが行われています。【「太陽/月の性別」が逆転】
言うまでもなくドイツ語では die Sonne(女性)、der Mond(男性)です。
ところが、ギリシャ語の太陽神アポロン(男性)、エジプト神話の太陽神ラー(男性)、あるいは"Brother Sun, Sister Moon"(聖フランチェスコの「太陽の賛歌」)といった全く逆のイメージがあります。
この謎解きも印欧祖語まで遡ります。
名詞の性は、大きく次の3つの要因で決まっていました。
つまり「語形」が最初の基準となり、「語尾 → 意味 → 神話」の三重構造で決まっていました。
- 形態的要因(語尾・屈折)
- -a, -ōn 系は女性
- -os, -us 系は男性
- -um, -on 系は中性
- 意味的要因(有生/無生、集合/抽象)
- 人や動物は「有生」かどうかで区別
- 集合体や抽象は「女性」
- 文化的・神話的要因
- 自然現象や天体が「神格化」された場合、その神の性別を文法性に投影
ただし、「太陽」「月」の性は統一されていなかったようで、sóh₂wl̥(太陽)は女性語尾で使われることが多く、mḗh₁n̥s(月)は語形的には中性や男性扱い、という程度でした。そのため、文化圏という要素が大きく影響したようです。
この背景として考えられているのが、地域差です。
- ギリシャ・ローマ文化圏
- 太陽 = 男性神
- ギリシャ:Helios(太陽神、男性)、後にアポロンと習合
- ラテン語:sol(男性名詞)
- 月 = 女性神
- ギリシャ:Selene(月の女神)、アルテミスとも結びつく
- ラテン語:luna(女性名詞)
- ゲルマン文化圏
- 太陽 = 女性神 (Sól / Sunna)
- 月 = 男性神 (Máni)
- 語形(sunnōn 女性語尾、mēnōn 男性語尾)と一致
月も同様に、南方では周期が出産や生理と関連(「月=女性」)、北方では夜空を航海・狩猟の指標として「案内者・兄弟的存在」(「月=男性」)と考えられています。
- 北方の太陽(ゲルマン・北欧)
- 稀少で優しい存在
- 長い冬や曇天の中、太陽は「命を与える貴重な恵み」
- 人々にとって守り・養う存在に近い
- 象徴としての性別 → 女性
- 母・姉・養い手といった役割と結びつきやすい
- 古ノルド語:Sól(女神)
ゲルマン語:sunnōn(女性名詞)- 南方の太陽(地中海・中東)
- 強烈で厳しい存在
- 日差しは灼熱、農耕や生活に大きな影響を与える
- 時に「敵」「試練」としても意識される
- 象徴としての性別 → 男性
- 力・支配・戦い・王権などと結びつけられやすい
- ラテン語:sol(男性)
ギリシャ語:helios(男性)
エジプト神話:太陽神ラー(男性)
結論として北方と南方で逆転してしまったようです。
北欧・ゲルマン語派
(ノルウェーからドイツあたりまで)ノルウェー語 sola 女性 スウェーデン語 solen 共性名詞(旧来は女性扱い) デンマーク語 solen 共性名詞(歴史的には女性) アイスランド語 sól 女性 古ノルド語 sól ドイツ語 die Sonne オランダ語 de zon 英語 the sun 無性(文法的性は消滅) スラヴ語派
(東欧)ロシア語 солнце 中性 ポーランド語 słońce チェコ語 slunce クロアチア語 sunce ロマンス語派
(南欧・地中海)イタリア語 il sole 男性 スペイン語 el sol ポルトガル語 o sol フランス語 le soleil ルーマニア語 soarele 中性/男性寄り ギリシャ語・バルカン 現代ギリシャ語 ο ήλιος 男性 ![]()
【顔のパーツの女性名詞は?】
下表は顔の主なパーツを列挙して女性名詞を色分けしたものです。
パーツ ドイツ語 顔 das Gesicht 頭 der Kopf 髪の毛 das Haar / die Haare(複数) 額 die Stirn 眉 die Augenbraue まつげ die Wimper 目 das Auge 瞳 die Pupille 鼻 die Nase 頬 die Wange / die Backe 口 der Mund 唇 die Lippe 歯 der Zahn / die Zähne(複数) 舌 die Zunge 顎 das Kinn 耳 das Ohr 首 der Hals あごひげ der Bart しわ die Falte ほくろ das Muttermal 鼻の穴 das Nasenloch
🔹 豆知識
「-eで終わる名詞は女性名詞が多い」 という判別はとても有効なのですが、例外の一つが das Auge(目)です。
これには歴史的な理由があります。
印欧祖語の時代から「目」は中性名詞でした。これは「身体の左右対の器官(目・耳など)」が中性であることが多かったり、感覚器官(心臓なども含む)は伝統的に中性で「生き物そのものではなく、機能する器官」として扱われてきたためと考えられています。
「目」は、印欧祖語(*h₃ekʷ- / *okw-)、ゲルマン語祖語(*augōn)を経て古高ドイツ語(750–1050頃)で「ouga」となりますが、もともとが接尾語eではありませんでした。
「ouga → Auge」への変化は、ドイツ語史における音変化(二重母音 [ou̯] → [ɔʊ̯]、語尾の -a が曖昧母音 -e に変化)が中高ドイツ語への移行期(10〜12世紀)にかけて起こった典型的な例です。この結果、綴り ouge / auge が定着して、近世高ドイツ語(1350~1650頃)で Auge となりました。【ジェンダー中立表記(geschlechtergerechte Sprache)】
ジェンダー問題はヨーロッパ言語においても大きな課題となっています。
次表は「Japaner(日本人)」を省略的に、ジェンダー中立的に書くための方法です。
書き方 意味・ニュアンス Japaner und Japanerinnen 最も正式、文法的に完全(女性を先に書く場合もある) Japaner/innen 中立的、よく使われる書き方 Japaner:innen 公式文書や大学などで増加中 Japaner*innen ジェンダー意識を強く示す形 Japaner(innen) やや古風だが依然として見られる
ジェンダー中立表記の歴史や使い分け
- 背景:ドイツ語の「性」には二つある
「性」は同じ Geschlecht という単語で表されますが、実は二つの異なる次元があります。
文法上の「男性名詞」だからといって、必ずしも男性を指すとは限りません。たとえば der Mensch(人間)は男性名詞ですが、女性も含まれます。
種類 ドイツ語 内容 例 文法的性 Genus 名詞が文法的に男性・女性・中性に分類される der Mann, die Frau, das Kind 社会的性(ジェンダー) Gender 社会的・文化的にみた性別のあり方 Mann ≠ „männlich“ の場合もある - 伝統的な使い方と問題点
従来の標準ドイツ語では、男性形を総称形として使うのが慣習でした(Japanerは男性形ですがdie Japanerで日本人の総称)。
しかし近年、「男性形を“包括的”と見なすことは、実際には女性やその他の性を見えなくしている」という批判が起こり、言語改革が進みました。- ジェンダー中立表記の発展
時代順に見た主要な書き方の流れ
時期 書き方 例 特徴・背景 1950–1980年代 男性形のみ Studenten 慣習的に「男女含む」とされた 1980年代以降 スラッシュ表記 Studenten/innen フェミニズム運動の影響、印刷上簡便 1990年代 かっこ表記 Student(innen) 文の読みやすさ重視 2000年代 アスタリスク Studentinnen* 多様なジェンダーを意識(非二元も含む) 2010年代〜現在 コロン表記 Student:innen スクリーンリーダーに優しい、大学や行政で採用増 同時期 ジェンダー中立語 Studierende 性を示さない分詞形で代替(例:studieren → Studierende) - 男性名詞と女性名詞の関係(語形成)
ドイツ語では、職業や民族名などの多くが男性形を基礎(語幹)にして作られており、「女性形を -in(複数は -innen)で派生させる」仕組みは、中世ドイツ語以降の文法化の結果です。語形成の上では「男性が原形、女性が派生形」とされてきました。
この構造自体が「男性を標準とし、女性を派生と見る」視点を含むとして、現代では Studierende(学んでいる人) のように「中立的・動作主的」表現を使う流れも強まっています。- 現代ドイツ語の立場
ドイツ国内では行政・大学・メディアによって使い方に違いがあり、公的には「男女平等な言語表現」が推奨されますが文体の自然さや可読性を理由に反対する意見もあります(社会的な議論の段階)。- まとめ
観点 内容 文法的性(Genus) 名詞の分類。言語体系上の区別。 社会的性(Gender) 実在する人間の性の多様性。 問題点 男性形が「包括形」とされてきたため、他の性が見えにくかった。 対策 Japaner/innen, Japaner:innen, Studierende など中立的表現の導入。 傾向 若い世代や公的文書ではコロン表記や中立語を好む。 【英語とは】
英語の動詞には、主語が「三人称(he, she, it など)+単数+現在形」のときだけ語尾に -s(または -es)をつけるルールがあります。
ドイツ語はと言うと、全ての人称によって語尾変化が異なります。
1人称(単、複):ich mache、wir machen
2人称(単、複):du machst、ihr macht
3人称(単、複):er/sie/es macht、sie machen
これと同じ変化は古ドイツ語(8〜11世紀頃)でもみられ、現在まで大きな変化は起きてないのが分かります。
例:代表的な動詞 “neman”(取る、nehmen の祖形)
1 人称(単、複): nimu(ich nehme)、nemēmēs(wir nehmen)
2 人称(単、複): nimmis(t)(du nimmst)、nemēt(ihr nehmt)
3 人称(単、複): nim(i)t(er nimmt)、nemant(sie nehmen)
同時期の古英語(5世紀〜11世紀頃)でも人称変化していますが、三単現と複数形は -þ(th 音)になっており、すでに複数形は統一されています 。
例:古英語の lufian(愛する)
1 人称(単、複): ic lufie、wē lufiaþ
2 人称(単、複): þū lufast、ġē lufiaþ
3 人称(単、複): hē lufaþ、hīe lufiaþ
中英語(12〜15世紀)になると語尾変化はさらに簡略化され、北部方言(スコットランドではなくイングランド北部、ノーサンブリア方言など)では三単現に -s を使う形が広まりました。一方、南部(ロンドン周辺)では長く -th(he loveth)の形が残っておりシェイクスピアの時代(16〜17世紀)には両方使われていましたが、最終的に -s が標準語となりました。
この北部方言はヴァイキング時代に古ノルド語(三単現は-r / -s 系)の影響を強く受けており、北部英語に -s が入り込んで th ⇒ s に変化しました(⇒【グリムの法則と英語の三単現のS】)。
古ノルド語の影響は他にもあり、古英語にあった名詞の複数語尾(-as, -an, -en, -a など)が現在の -s 複数形になりました(⇒【childrenの不思議な話】)。また、代名詞(they / them / their)の置き換え、語順・文法の単純化(SVO、語尾変化の消失) 、発音・形態への影響など現代英語の核となっています。
この流れからも「英語を基準にしたドイツ語学習」の難しさが窺えます。
【Here comes the sun】
Here the sun comes. じゃないの?
これは英語を習った時の疑問です。
正式な文法解釈は知りませんが、これこそ現代英語に残ったV2構文そのものであり、古風な表現として抒情的な印象があるはずです。
I love you. (英語はSVO)
Ich liebe dich. (独語は動詞が2番目)
この時だけ奇跡的に同じ語順になりますが、後述(【英語教育によるドイツ語の誤解】)のように助動詞を使っただけで別の構造になってしまいます。
ドイツ語の文の基本構造は主節(V2)+従属節(SOV)なので、SOV の並びをV2に変える方法だけ理解すれば良いです。
SOV : Ich das Buch heute lesen will.
(I will read the book today.の意味)
V2 のバリエーションは以下の通りとなります。
主語を最初に置く必要はなく、その点は日本語でも同じです。そのため日本人には違和感なく理解できますが、語順が重要なSVOで理解しようとすると混乱します(以下は英単語で置き換えた例)。
- Ich will das Buch heute lesen.
主語「私」を強調。→「他の人じゃなくて私が読む」- Heute will ich das Buch lesen.
時間を強調。→「昨日でも明日でもなく、今日読む」- Das Buch will ich heute lesen.
対象を強調。→「新聞や雑誌じゃなく、その本を読む」- Lesen will ich das Buch heute.
行為を強調。→「読むことをするんだ、他のことじゃなく」
- I will the book today read.
- Today will I the book read.(疑問文風)
- The book will I today read.(???)
- Read will I the book today.(命令文風)
【属格の後置修飾と英語の所有格('s)の由来】
英語の所有格は語末に"’s"を付けますが、この由来はドイツ語にも残る属格と同じです。その属格が後置修飾となっている理由は次の経緯です。
ドイツ語では名詞を語尾変化させて被所有物の後ろに置きます。この変化が起きたのは中高ドイツ語の時代です。
英語と共通祖先となるゲルマン祖語の時代、属格は他の格(前置修飾)と同様に名詞の前(例:meines Bruders Haus)に置かれていました。そこから分岐した古英語や古高ドイツ語でも同じです。
中高ドイツ語は次の理由で後置修飾に変化しました。
- 名詞句の後置修飾の伝統
「修飾語を被修飾語の後ろに置く傾向」が強い言語で、「情報を補足的に付け足す」役割がある属格や関係代名詞節は名詞の後ろに置く方が理解が容易でした- 文全体の情報構造
「旧情報 → 新情報」の順序が好まれ(情報構造の原則)、名詞をまず提示した後に属格で追加情報を付ける方が文章の流れが自然でした
例:Haus(既知の話題) → meines Bruders(新情報、追加説明)- 屈折語の歴史的摩耗
ゲルマン祖語から中高ドイツ語初期、属格を含む名詞句は前置・後置の両方がありましたが、中高ドイツ語後期には冠詞と名詞の結合が強化されたので後置の方が文法的明確性がありました
現代英語は古英語の流れのまま進化します。
例:王さまの本
(英)the kinges book
(独)das Buch des kuninges(kuningは現代ドイツ語のKönigs)
そして英語ではeが省略されて
the king’s book
となり、現代では’sが独立して所有を表すようになりました。
なお、英語で後置修飾をする場合は前置詞ofを使って
the book of the king
となります。【グリムの法則と英語の三単現のS】
【動詞の屈折と歴史】で述べた通り、印相祖語の「t」がゲルマン祖語では「þ(エススラッシュ,[θ])」に変化しています。これを含む音韻法則がグリムの法則です。
この音韻法則が経た3段階シフトを下表にまとめます。
グリムの法則
段階 印欧祖語(例) ゲルマン祖語(例) 現代語 第1段階
無声閉鎖音 → 無声摩擦音p
(pətḗr)f
(faðēr)英:father
独:Vatert
(tréyes)þ [θ]
(þrīz)英:three
独:dreik
(ḱer-)h
(hurnaz)英:horn
独:Hornkʷ
(kʷod)hw
(hwat)英:what
独:was第2段階
有声閉鎖音 → 無声閉鎖音b
(pisk-)p
(fiskaz)英:fish
独:Fischd
(dwóh₁)t
(twai)英:two
独:zweig
(ǵhans-)k
(gans)英:goose
独:Gansgʷ
(gʷih₃wos)kw
(kwikus)英:quick
独:quieken第3段階
有声帯気閉鎖音 → 有声閉鎖音bh
(bhrā́tēr)b
(brōþēr)英:brother
独:Bruderdh
(dʰwór)d
(duraz)英:door
独:Türgh
(ǵʰebʰ-)g
(gebaną)英:give
独:gebengʷh
(gʷh-)gʷ
(gʷ-)英:goose? give?
独:geben
英語の三単現のS グリムの法則に従って、古来(印欧祖語)の動詞の屈折「t」がゲルマン祖語では"þ[θ]"に変化しました。その状態で紀元後200年〜500年頃に分化(ゴート語、古英語、古高ドイツ語、古ノルド語、など)します。
古英語や古ノルド語は"þ","ð"を保ちますが、南ドイツ方言(アレマン語・バイエルン語など)ではグリムの法則で生まれた摩擦音"þ[θ]"/"ð[ð]"が再び破裂音"t"/"d"に戻るという大変化がありました(高地ドイツ語子音推移、6〜8世紀頃)。
そのため、英語に残る"th"語は、ドイツ語では"d"/"t"で対応しています。
古英語(~1100年頃)に残った"þ[θ/ð]"はイングランド北部(ヨーク付近)と南部(ロンドン付近)で別の経過を辿ります。
《標準化》
- 南部
ノルマン征服(1066年)以降の影響でフランス語由来のラテン文字体系が強くなり、ラテン語にない"þ"や"ð"は"th"が代用として用いられるようになります(13世紀以降の中英語ではほぼ"th"に統一)- 北部
北部方言(ノーサンブリア方言など)では[θ]/[ð]が弱まり、しばしば[s]/[z]に近い発音になっていました。これに伴うように12世紀ごろから"-s"が現れ、次第に優勢になります。これには3単現語尾が"-r"/"-s"だった古ノルド語(ヴァイキングの言語)との接触の影響があったと考えられています
中英語(~1500年)頃には文字としての"þ"や"ð"は"th"に統一されていましたが、文法は地域差がありました。
北部では屈折語尾が単純化されており、1人称単数の"-e"が残る程度で、2人称の"-st"も弱まっていました。複数語尾も無語尾となっていたので南部の"-eth"/"-en"に比べてずっとシンプルでした。
例:loven「愛する」 補足:語幹を"lov"とするか"love"とするかが曖昧。
人称 北部 南部 1単 I love I love 2単 thou love(s) thou lovest 3単 he loves he loveth 複数 we love we loven
16世紀以降に北部の"-s"が徐々に標準化し、近代英語の"he loves"に落ち着きました。なお、今でも古風な表現(詩・聖書)では"-th"が残ります(例:He saith)。【完了形のhaben(ドイツ語)とhave(英語)】
ドイツ語も英語も過去分詞は補助動詞(ドイツ語は haben/sein、英語は have)を伴って完了形構文を作ります。そのため、ドイツ語にありがちな屈折が過去分詞にはありません。過去分詞を形容詞的用法として名詞を修飾する時に限り、形容詞としての屈折をします。
これには、もともと「過去分詞が状態を表す語(形容詞や副詞的要素)」であり、動詞 haben/sein によってその状態を「持っている/ある」と述べる構文から発達したことに由来します。
ドイツ語の場合 古ドイツ語の段階では、過去分詞は「完了された・終わった」などの意味をもつ形容詞でした。この形容詞が動詞の後に使われて状態を表すようになり、やがて「完了した出来事」を表す構文に発展しました。
- 移動や変化を表す動詞(gehen, kommen, sterben など)
「状態にある」を意味する sein と結びつきました。
⇒ 行動の結果、「新しい場所・状態に到達している」という発想です。- それ以外の動詞
対象を持ち、結果を手中にしているような動作(etwas machen, schreiben, sagen など)は haben と結びつきました。
⇒ 「その結果を所有している」という感覚です。
英語の場合 英語の完了形もドイツ語とまったく同じ由来で、両方とも西ゲルマン語(ゲルマン祖語の次段階)における「所有構文」から発展しています。
古英語の時代には名詞を後置修飾する形「have + 目的語 + 過去分詞」になっていましたが、中英語の時代になると「have + 過去分詞 + 目的語」に近い用法が定着しました。
ドイツ語の「sein + 過去分詞」に対応するものが、古英語の段階ではありました。この構文は中英語までは普通に見られましたが、やがて英語では have がすべての動詞に拡張し、「be + 過去分詞」は受動態専用に特化しました。
口語の過去形(ドイツ語) ドイツでは「過去形が過去完了(あるいは完了形)に移行している」という現象が口語史の中心的変化となっています。これは文法上の単なる「時制の交代」ではなく、表現の焦点が「出来事そのもの」から「結果・経験」へ移ったことを反映しています。
本来、「過去形は過去の出来事」、「完了形はその結果・現在との関係」という違いがあり、英語は現在でもその使い分けをしています。
中高ドイツ語(12〜14世紀ごろ)ではまだ明確な区別がありましたが、近世ドイツ語(16〜17世紀)頃から口語では「完了形が過去を表す一般的な方法」になり、「過去形は書き言葉や物語文」に限られるようになりました。これには次のような理由が考えられています。
なお、過渡期である現在は地域差があり、北ドイツ(ハンブルク、ベルリンなど)では過去形も口語で比較的よく使いますが(特にsein, haben, können, müssenなど)、南ドイツ・スイス・オーストリアでは完了形が圧倒的に優勢で日常会話では過去形をほぼ使わなくなっています。
- 話し言葉では「現在との関係」を重視する傾向
口語では「今どうなっているか」が重要で、完了形はまさに「過去の出来事+現在の結果」を同時に表せるので自然に好まれるようになりました。- 過去形の屈折が弱くなり、話し言葉で不自然に
弱変化動詞の過去形語尾(-te など)は区別が乏しくなり、音声的にも似通って聞き取りにくくなりました。完了形なら 助動詞(haben/sein)で補強でき、聞き取りやすく明確なため音声的明瞭性の面でも完了形が優位になりました。
- 北部:「Ich war gestern dort.」
- 南部:「Ich bin gestern dort gewesen.」
【現在進行形(英語)がドイツ語に無い理由】
英語は現在進行形(be + -ing)で「進行中の動作」を表しますが、ドイツ語にはこの文法はありません。理由は単純で、両言語の共通語であるゲルマン語には「進行中の動作」を表す専用の文法形はなく、後に追加された文法だからです。
ただし、興味深いことに「ゲルマン語派の中で、同じような文法的発展が別々に起きた(=並行発達)」と考えられています。
英語とドイツ語の「進行中の動作」 英語でも古英語の時代には「進行形」は無く、ドイツ語と同じように現在形の文脈で判断していました。
項目 英語 ドイツ語 起源 be + on + 動名詞 sein + an + 名詞(行為名詞) 名詞語尾 -ing(動名詞) -en / -ung / -n(名詞) 前置詞 on(空間的) an(接触・関与) 前置詞の変化 on → 音消失 an dem → am に縮約 現在の形 be + -ing(完全に文法化) sein + am + 不定詞(半文法化) 意味 明確な進行形(文法カテゴリー) 口語的な進行表現(準文法的)
中英語期(12~15世紀)になると、「be + on + 動名詞(~inge)」の構文が使われ始めます。この動名詞が動詞的な意味へ変化し(~ing)、やがて前置詞 on が弱まって音的に消えていきます。これによって、もとは「be + 前置詞 + 動名詞」だったものが、「be + 動詞(-ing形)」のように見える構造になりました。
近代英語期(16~17世紀)には、動名詞が動詞的に再解釈されたのです。
ドイツ語の「sein + am + 不定詞」は17〜18世紀の口語で自然発生した表現です。
※ドイツ語では動詞の不定詞(原形)を大文字にするだけで中性名詞化できます。
たとえば、不定詞部分にEssen(「食べる行為」を表す)を入れると「食事の最中にある」といえ意味になりました。これは名詞的構文であり、文法的には「進行形」ではなく「状態」を表すものでした。
現代標準ドイツ語ではまだ正式な進行形とはされてないですが、口語では英語の「be + -ing」に相当する意味で広く使われています。【英語の仮定法If I wereのwereって何?】
そもそも、印欧祖語では英語の「be動詞」に相当する動詞が少なくとも3つ存在しました。この3系列がゲルマン語段階で統合されて、古英語で「bēon」「wesan」という2本立てになり、最終的に一つの「be動詞」 に融合しました。ゲルマン語で分岐したドイツ語も同じ構造です。
意味・用法 ゲルマン祖語 古英語の動詞 現代英語 現代ドイツ語 現在形での「am, is, are」 iz / ist / sind wesan / esan 系 am / is / are bin / ist / sind 存在・状態「そこにある」 wesaną wesan was / were war / waren 恒常・習慣的「〜である」 beuną / biju- bēon be / been sein / gewesen
ゲルマン祖語以来の「接続法(仮定法)体系」を英語とドイツ語がそれぞれ受け継いだ結果、同じ母音変化(a → æ / ä)の接続法形「過去語幹+ウムラウト的変化+特殊語尾」となっています。
言語 用法 古(~11世紀) 中(12~15世紀) 現代(16世紀〜) 英語 直説法過去 単 was was was 複 wǣron were were 接続法過去 単 wǣre were were ドイツ語 直説法過去 単 was was war 複 wârun waren waren 接続法過去 単 wāri / wære wære wäre
【助動詞/補助動詞とwissenの屈折(語尾変化)】で述べた通り、ドイツ語の仮定法過去wäre(接続法Ⅱ形)は直説法過去warenの語幹母音が a → ä(ウムラウトを加えた形) と変化した体系的過程に属します。
それに対して英語は中英語の時点で直説法過去複数と接続法過去が同形のwereに変化したため、"if I were ~"が誤解しやすい形になった訳です。
これにはもう一つのストーリーも絡みます。
古英語(~1100年)の時代、二人称は“thou”(単数)/“ye”(複数、目的格が“you”)が使われていました。
ノルマン征服(1066年)後、上流階級ではフランス語が支配的になり、14世紀(中英語)には目的格“you”が敬称主格として使われ始めました。これにはフランス語の“vous”が単数敬称として使われていたことが影響したと考えられています。
- (単数) Thou art ~.
- (複数) Ye are ~.
15世紀になると、“you”が単数一般形として広まります。“thou”は親しい間柄・目下への呼びかけ(ドイツ語の“du”/“Sie”の関係と同じ)に限定されるようになりますが、17世紀以降に“thou”は衰退していきます。こうして“you”が単複共用となり、二人称単数の過去形も"you were"となりました。
【childrenの不思議な話(子供は永遠に)】
古英語(~11世紀)はゲルマン語の流れを汲んで名詞の語尾にはさまざまな複数形がありました。
(現代ドイツ語と同様)
1066年のノルマン征服以降は英語の音体系が大きく変わります。ノルド語との交雑で語尾が消えていく中で、新たにフランス語の複数形 -s に影響を受けます。
ただし一部は不規則に残って現代まで続いており(ウムラウトなどの母音交替)、
• man → men
• foot → feet
• mouse → mice
• child → children(古い -en 複数 が化石的に残った)
英語 child とドイツ語 Kind / Kinder は、印欧祖語までさかのぼる同源語で、
英語 childは
• ゲルマン祖語 *kelđą(子、胎児、若者)
• 印欧祖語 *gele- / *gʰel-(成長する、養う)
ドイツ語 Kind, Kinderは
• ゲルマン祖語 *kindą(子ども)
• 印欧祖語 *ǵenh₁-(生む、産む)
両者は語源的には微妙に異なる可能性があります。
child は「胎児・若者」という古い語義から、Kind は「生まれたもの」という語義から発展して、「子供」を意味するようになりました。
【ドイツ人の苗字(Familiennamen)】
ドイツの苗字は中世後期(約13〜15世紀)に固定化しており、多くは 職業・出身地・父称(〇〇の息子)・特徴(外見や性格) から来ています。
その中でも職業由来は特に多く、苗字ランキングでも Müller, Schmidt, Schneider, Fischer, Weber などが上位を占めています。
F1のシューマッハ(Schumacher)が靴職人というのは不思議な縁を感じますし、他にもボブ・ディラン(本名はZimmermann)家がアメリカに移ってから家具屋を営んでたというのも偶然とはいえ出来過ぎています。
以下に代表例をあげておきます。
- 職業そのものを苗字にしたもの
• Müller(粉ひき職人、millar → miller)
• Schmidt / Schmitt / Schmied(鍛冶屋、smith)
• Schneider(仕立て屋、tailor)
• Bauer(農夫、farmer)
• Fischer(漁師、fisherman)
• Bäcker(パン屋、baker)
• Metzger / Fleischer(肉屋、butcher)
• Koch(料理人、cook)
• Zimmermann(大工、carpenter)
• Maurer(石工、mason)
• Schäfer(羊飼い、shepherd)
- 特殊な職業・役職に由来する苗字
• Kaiser(皇帝)
• König(王)
• Fürst(領主、公爵級の君主)
• Graf(伯爵)
• Herzog(公爵)
• Pfaff / Pfaffe(司祭、牧師)
• Abt(修道院長、abbot)
• Keller(地下貯蔵室係、cellar master / steward)
• Schultheiß / Schulz / Scholz(村長・判事に相当する地方役人)
- 商売・手工業に由来する苗字
• Kaufmann(商人、merchant)
• Händler(商人、trader)
• Weber(織工、weaver)
• Gerber(皮なめし職人、tanner)
• Sattler(馬具職人、saddler)
• Seiler(縄職人、ropemaker)
• Schuster / Schumacher(靴職人、shoemaker)
• Töpfer(陶工、potter)
• Küfer / Böttcher(樽職人、cooper)
- 中世の都市社会で重要だった職能から
• Beck(パン屋 → Bäckerの方言形)
• Wirt(居酒屋・宿屋の主人)
• Knecht(従者、servant)
• Diener(召使い)
• Richter(裁判官、judge)
【(超・番外編)スペイン語とイタリア語】
ドイツ北部で発展したゲルマン語は、スカンディナヴィア諸語の元となる北ゲルマン語と西ゲルマン語に分かれます。
ゲルマン民族の大移動にともなって、西ゲルマン語が3つの主要な方言群に分かれて拡散しました。
- 北海ゲルマン語(現在のオランダ北部、北ドイツ北部、デンマーク南部沿岸)
この原語がさらに3つに分岐
- 古サクソン語(現在のドイツ北部)
→ 低地ドイツ語になる他、古フランク語と再合流して現代オランダ語になりました- 古フリジア語(オランダ北部・フリースラント)
- 古英語(アングロ・サクソン族がイギリスに移住)
- 古フランク語(フランク族の居住地であるライン川流域)
- 古高ドイツ語(ドイツ南部・アルプス周辺)
本題のスペイン語とイタリア語は、印欧祖語がローマ付近で発展したラテン語が元になっています。ラテン語はローマ帝国の言語としてその勢力拡大とともに地中海沿岸に拡散しています。フランス語もそのひとつですが、前述の古フランク語の影響を受けたことで他のラテン語系言語とは極端に変化しました。
逆に言えば、古フランク語の影響を受けなかったスペイン語やイタリア語は現在でも類似性が残っています。
類似性の具体例 他にも、文法では
意味 ラテン語 イタリア語 スペイン語 フランス語 水 aqua acqua agua eau 太陽 sol sole sol soleil 良い bonus buono bueno bon 愛する amare amare amar aimer であり、発音と綴りの対応はほぼ一対一ですが、フランス語では音が大きく変化してます(子音の消失、母音の曖昧化など)。
- 名詞の性(男性・女性)と単複の一致を保っている
- 動詞の活用体系もラテン語に忠実
つまり、スペイン語とイタリア語はほぼ方言レベルで通じる部分が多く、海外旅行程度なら支障はないでしょう。