29. ジョンの演奏をこっそりと直すマーティン

最初にジョン&ポールとマーティンの不思議な関係から触れます。これをどの程度「傾向」と捉えて良いのか分かりませんが、以下のような事例があります。

64年冬、Can’t Buy Me LoveのサビからAメロに移る箇所のコードはマーティンが変更しました。
現代では誰でも知っているⅡm – Ⅴ – Ⅰ の進行ですが、当時のジョンとポールは理論に疎かった様子を窺わせます。
この時は師であるマーティンが作曲時に指南しています。

65年夏、Yesterdayに弦楽四重奏が使われます。このスコアはマーティンが作成しますが、ポールも同席して弦楽四重奏での和音構成を学ぶと共に自らアイデアを出しています。
ポイントはサビの頭です。ギターではAメロ2小節目と同じ Ⅶm7 – Ⅲ7 で始まりますが、チェロが Ⅲ7sus4 – Ⅲ7 としています。
マーティンが亡くなった今となっては永遠の謎です。

ポールとマーティンは師弟関係の様子も窺えますが、ジョンの場合は違ったようです。

67年秋、I Am The Walrus にマーティンはストリングスを加えます。
ジョンのエレピ演奏を補強するアレンジになっているのですが、一箇所だけ違っています。
ジョンはD7コードの箇所で数のような弾き方をしています(三角は親指)。白鍵が使われるのがジョンらしい所です。

問題はE7コードの時です。D7の場合と全く同じ弾き方をしているのですが、鍵盤の配列に伴う音楽的な不都合があります。マーティンはストリングスで緑の音を使っていますが、ジョンに演奏を直すようには指導しなかったようです。

これが偶然ではない事が2019年の『ABBEY ROAD』デラックス盤で明らかになりました。

69年夏、Because はヨーコが弾いていた『月光』からインスピレーションを得たジョンが作曲しています。

ポイントになるのはAメロ3小節目の D#m7b5 です。

マーティンはジョンのアルペジオを完コピしたと語っていますが、ここだけは違っていたのです。公開された第1テイクでジョンがG#7sus4を弾いているのが明らかになりました。

使っている音を鍵盤にプロットしてみると1音しか違わないのですが、マーティンが弾くスピネットをコピーしていたバンドの人は相当苦労したと思います。ギターでは押さえ難いのです。

この小節(3小節目)だけはギターとスピネットが一致しないのでイントロではギターを途中(5小節目)から加えるアレンジにしたと思われます。

ちなみにジョンはどこを逆に弾いてもらったかまでは語っていません。
Yoko was playing “Moonlight Sonata” on the piano.
I said, “Can you play those chords backwards?”

ところが逆に演奏するとG#7sus4のような響きになる小節があります。
G#7 – C#m – C#m9 – G#7 と下降するフレーズがあり、ここを逆に弾くとG#7sus4のアルペジオの雰囲気になります。
おそらくここで間違いないでしょう。