18. Good Morning Good Morningでピッチ変更したのは雄鶏?雌鶏?

自分で気付いたアハ体験には感動しますが、『SGT. PEPPER』は評価の高いアルバムですので評論も多く、語り尽くされた印象があります。新発見は既に誰かも気付いているもので、多くの書評はどこかで聞いた話をまとめただけになりがちです。

とは言え、技術的に難しい分野や演奏面の話になると文字にされる事もなく、公知とはなっていないものの残っています。

そのひとつがStrawberry Fields Forever で使われた音のモーフィングです。

エンディングの開始を告げるギター・フレーズの終わりでギター音が減衰しないように持ち上げつつチェロのフレーズをフェードインさせることにより楽器が自然に入れ替わったような錯覚を与えています。
モノでは言わずもがな、当時のステレオ(アメリカ盤『MAGICAL MYSTERY TOUR』)ではギターとチェロの定位が重なっているので効果的です。

ところがCDバージョンとなった最初のリミックスでは定位にズレがあり、近年のリミックスではギターがセンターでチェロは左右となっています。いずれもクロスフェードが成立していないのが惜しまれます。

当然ながら、この事実に気付けるのはレコード(青盤以降はNG)を持っている世代となります。
ちなみに『SGT. PEPPER』デラックス盤にオリジナルのステレオバージョンが収録されなかったのは謎のままです。

このモーフィングが次に活かされたのが“鶏の鳴き声からギター”(Good Morning Good MorningSgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (Reprise))です。

というのが一般的な認識ですが実際には少し違うようです。しかし、話が混乱してしまわないよう、先ずは公知の事実を説明しておきます。

次曲との結合作業で雌鶏の鳴き声とギターのピッチ調整をして繋いだと証言したのはエンジニアであるジェフ・エメリックです。
この編集はあまりにも有名な話ですが、モノよりもステレオ(無編集)の方がしっくりくるのが不思議です。

とは言え、これが行われたのは4/19(ポールも復帰済み)の作業はモノのみで、差し替えのためにモノは動物のSE部分が短くなり、逆に次曲のパーカッション4打(2拍分)がダブっている点などからも間違いでは無さそうです。

ところが、この日の作業はこれだけではありませんでした。

ここからが新事実も考慮した本題です。

先ずはSEに注目した全体構成を示しておきますと、オープニングの雄鶏 〜 (本編) 〜 エンディングの開始を告げる雄鶏 〜 (各種動物のSE) 〜 最後の雌鶏 〜 次曲のギター となっています。

絶対音感のある人は気付きやすいのですが、モノとステレオではオープニングの雄鶏のピッチが違っています。エメリックが労力を注いでいたのは恐らくこちらの方でしょう。

モノでは雄鶏の鳴き声が1音弱低くなっており、キーAの音階(レソソミファ#)に補正してあるのです。こうすることで続くブラスの音に音楽的にも繋がるようになっています。
これは正に現代のサンプラーの発想です。

残念ながらステレオではこの作業は行われず、2017リミックスにも反映されていません。

この原因が今回新たに判明しました。
モノの「オープニングの雄鶏」は「エンディングの開始を告げる雄鶏」と同一で、モノにもステレオにも入っています。

この事実で作業手順はほぼ確定できます。

3月下旬にエンディングとなる一連のSEを追記した時、当初はオリジナルのピッチ状態でオープニングとエンディング開始位置に雄鶏を配置していたと思われます。

ところが、曲中に出てくるとボーカルとの違和感で浮いてしまうので、前後のボーカルに合うようにピッチ補正を行ったのでしょう。
つまり「ブラスの音に音楽的にも繋がるように」ではなくKey A(コード進行はA-D-A-D )で違和感なくハマるように補正した訳です。

この状態で一旦はモノとステレオのミキシングを行なっています。

ところがアルバム編集として4/19に次曲Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (Reprise))との繋ぎ部分を修正して差し替える際に、オープニングの雄鶏もピッチ補正した「エンディングの開始を告げる雄鶏」に差し替えた、という流れです。

これであれば楽曲のマスターテープの雄鶏は現在でもピッチの高いオリジナルのままであり、2017リミックスにそれが使われている点と矛盾しません。