16. ジョンのベースにDIボックスを使った理由は?

機材、それはその分野専門のマニアもいるくらい複雑怪奇な世界です。ここでは難しい話は省略して、「良い音とは何か」という点だけ着目します。

「良い音」の対極は「ノイズ」になると思います(もちろん最後は話題をひっくり返しますが)。
ギターやベースを録音する場合、
・楽器をアンプに繋ぎ
・アンプの音をマイクで拾い
・マイクの音をコンソールに入力し
・コンソールからテープレコーダーへと経由して磁気テープに記録
という流れになります。これ以上の難しい話はカットします。

この間には、各々の機材で様々なノイズが発生します。また、演奏した音も変化しながら劣化していきます。

DIボックスは楽器とコンソールを直接繫ぐ装置で、アンプとマイクをバイパスすることによって大幅なノイズ削減効果が期待できます。

ただし、ギターはアンプで作る音(歪んだ音が分かりやすいと思います)も重要な要素であるため、主にはベースで使われていました。
ベースの録音といえばPaperback Writerで大型スピーカーをマイク代わりに使ったというくらい低音の録音が課題となっていました。DIボックスを使えばこれを改善できた訳です。

ここまでが一般論で、ここからが本題です。

Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club BandではジョンがDIボックスを使ってベースを弾いています。しかしながら、これは「良い音」を録音するのが目的ではありませんでした。

公開された第1テイクにはベース音が含まれていません。この理由をエンジニアであったジェフ・エメリックが明かしています。

スタジオ内で鳴らした音は大なり小なり他の楽器用のマイクに入ってしまいます。Can’t Buy Me LoveLet It Be の間奏で3本目のギターがうっすらと聞こえているのはそのためです。

DIボックスを使えば、スタジオ内ではベースを鳴らさずに、コンソール経由でヘッドホンに流すという技が使えます。

つまりジョンのベースは録音するためではなく、当初から他の演奏者をサポートするためだけのガイドベースでした。後でポールが演奏するのが大前提だったので、他の楽器の録音に混ざっては困るという訳です。

「差し替え作業」によって「ベーシックトラックにポールが2人」という状況も出て来たため、誰がどの演奏をしたかの判断は急速に難易度が上がっていきます。
したがって、これ以降は酒の肴として議論を楽しめる人間性が重要になります。