8. ポールはボウイング奏法の先駆者になり損ねた男?

65年初頭、『HELP!』のレコーディングでジョージは「12弦ギター➕ボリュームペダル」という組み合わせでバイオリン奏法を始めています。
何故それを断言できるのかと言えばプロデューサのマーティンがこの時期の作業メモを自書『Playback』で公開しているからです。
注:前作のEight Days A Weekも怪しいですが、こちらはギター本体のボリュームコントロールと思われます。

このボリュームペダルによるバイオリン奏法は音の立ち上がりを緩やかにしてバイオリンで出した音の雰囲気に近付けるものです。
しかし、それとは別の方法を試している事が前述のメモ(『Playback』)で明らかにされています。

その注目の記述は以下です。
Paul bowing bass guitar

ポールがベースギターを弓で弾いています。したがってバイオリン奏法というよりはチェロ奏法です。
この記述があるのは65/2/20のThat Means A Lot(Take1)で、ご存知の通りビートルズのレコーディングは未完成に終わってP.J.プロビーに譲っています。

ここからが本題です。
もしもこの録音が『HELP!』に収録されて世に出ていたらポールが弓弾きの先駆者と呼ばれていた可能性があったのです。

ボウイング奏法と言うとレッド・ツェッペリンでのジミー・ペイジが真っ先に浮かぶ人が多いと思われます。コンサートでのパフォーマンスはツェッペリン・ファンでなくても目にするほど有名でした。
ペイジ自身はその前身バンドであるヤードバーズ時代、1967年に”I’m Confused”で初披露しています。ポールはこれより早く実施していた事になります(もっともペイジはそれより10年以上前に見て感化されたらしいですが)。

ただし、史実として確認されているのはペイジではなくエディ・フィリップスです。1963年に自身のアイデアでギターのボウイング奏法を始めて、The Creationのデビューシングル(“Making Time”)として1966/6/17にリリースした事によりイギリスで広く知られるようになったとされています。

つまり、この時点でもThat Means A Lotの方がレコーディングは早い事になります。
ポールが完璧主義者でなければ「ボウイング奏法を最初にレコード化した人」の称号も手に入れることができたのに、と惜しまれます。