5. A Hard Day’s Nightの間奏は誰のアイデア?

初の主演映画の主題歌となったA Hard Day’s Nightには多くの逸話があります。ジョンが一晩で書き上げた、イントロとエンディングは映画監督リチャード・レスターのリクエスト、パーカッションはエンジニアのノーマン・スミスが演奏した等、関係者の総力戦だった様子を窺わせます。
その中でも有名なのが、間奏は録音する時にテープ速度を半分に落としたというものです。これ自体が面白い事実なので伝記作家の究明はここまでで止まりますが、ギタリストなら普通に疑問に思うはずです。

「何故ジョージは自分で弾けないフレーズを考えてレコーディングしようとしたのでしょうか?」

これを知るために(やや脱線気味ですが)1年前から歴史を追ってみます。

ビートルズの人気に火が付いた63年が幕を開けると、EMIはちょっとした混乱期を迎えます。シングルのステレオバージョン作成に苦労した経験から、第3弾シングルでは最初からステレオ音像を想定してセンターに演奏を入れるなど録音方法を工夫しています。

ところがビートルズはシングルとアルバム収録曲は別にしたいという方針を打ち出します。これによって第3弾シングルのステレオ版は不要となってしまいます。
そこで第4弾シングルはレコード用のマスターテープが完成したら作業途中のレコーディングテープが処分されてしまいます。皮肉にもこの時のShe Loves Youは当時のイギリスの記録を更新する大ヒットとなっています。

これを受けて、ビートルズのレコーディングテープは全て残す方針が示されたらしく、EMI内部は右往左往していたようです。
ともあれ、全てのテープが残されたお陰でビートルズ研究は飛躍的に容易になっています。

少し本題に近付きました。

63年9月、混乱するEMIとは対照的にビートルズはすべてが好循環していきます。これは多くの人にとっても人生の教訓になるでしょう。「偶然に起きた事を活かせたらそれは必然だった事になる」という事であり、そこが天才と凡才の差なのかも知れません。

この時期に2つの偶然が並行して起きています。

ひとつはジョージのアメリカ旅行です。
ビートルズは63年9月下旬にようやくまとまった休暇をもらい、ジョージは姉夫婦が住むアメリカ・イリノイ州で過ごしています。この期間に購入したリッケンバッカー425を10月4日のテレビ番組「レディ・ステディ・ゴー」出演時に使用しますが、この映像が「2人(ジョンとジョージ)のギタリストがリッケンバッカーを使うバンド」としてリッケンバッカー社の目に留まります。その結果、64年2月のアメリカ行きの際にリッケンバッカー360/12の提供を受けたのは周知の事実です。

ちなみに帰国後から12弦ギターを多用しますが、却下した感性は注目に値します。And I Love Herに12弦ギターは適さないと早々に見極めると、たまたま前日に遊びに来たクラウス・フォアマンが、ドイツから直行するのではなくたまたまスペインに立ち寄っていて、たまたま購入していたガットギターをジョージが気に入ってスタジオに持ち込んでいます。
これもまた、どこまでが偶然でどこまでが必然か悩ましい出来事です。

本題に戻って、もうひとつの偶然もまた鳥肌ものです。

ビートルズはデッカ・レコードのオーディションに落ちていますが、そのビートルズの推薦でローリング・ストーンズがデッカからデビューします。
その結果、ストーンズが出演していたクロウダディ・クラブの後釜に収まったのがヤードバーズです。エリック・クラプトンがヤードバーズに加わるのもこのタイミングです。

直後の63年11月、ヤードバーズもデッカのオーディションを受けるためにデモ3曲を録音していますが、ビートルズと同様にオーディションには落ちてしまいます。さらにビートルズと同様に、64年2月(!)にEMIと契約しています。

ようやく全ての情報が揃いました。

ヤードバーズのデモ3曲の内のひとつにHoney In Your Hipsがあり、このイントロの3小節目が間奏の速弾き部分と同じなのです。

ジョージが弾く第1テイクの間奏はメロディを利用した単調なものでした。(前述の通り全てのテイクが聴けるので)これが最終テイク(第9テイク)で突然ヤードバーズのフレーズになります。しかも前述の通りジョージは弾きこなせず、テープ速度を落として12弦ギターとベース(ピアノではありません)での録音となっています。

ちなみにギターとベースで間奏を弾くのはFrom Me To Youも同様で彼らの得意とする所ですが、12弦ギターの登場によってオクターブ奏法が陳腐になってしまったためジョージはこれ以降オクターブ奏法を封印しています。

これらの状況から、ビートルズが直接、あるいはスタッフが聴いていたヤードバーズのデモ(演奏はクラプトン)を、ポールあるいはジョンが採用して無理矢理に間奏に組み込んだと思われます。