Paul McCartneyバージョン違い調査

アルバム:

【データ破損について】 本題とは異なるが大前提として触れておかなければいけない。「磁石屋とチタン男」の2'45"と 「コール・ミー・バック・アゲイン」の1'50"で0.08秒ほど音が飛んでいる。テープ編集等によるも のではなく、図に示す通りデータが抜けて詰まった状態になっており、デジタル処理のミスと考えられ る。無料ダウンロード可能なハイレゾ音源では問題ないので、是非ダウンロードしていただきたい。
この2曲に関してはハイレゾ音源をiTunesでダウンコンバートしたものを使って比較している。
「磁石屋とチタン男」の2'45"
上が1987年盤、下がリマスター(以降、同じ)


「コール・ミー・バック・アゲイン」の1'50"

リマスター版と旧CDバージョンとの相違を調査する。
ディスク:1
  1. ヴィーナス・アンド・マース
  2. ロック・ショー
  3. 歌に愛をこめて
  4. 幸せのアンサー
  5. 磁石屋とチタン男
  6. ワインカラーの少女
  7. ヴィーナス・アンド・マース (リプライズ)
  8. 遥か昔のエジプト精神
  9. メディシン・ジャー
  10. コール・ミー・バック・アゲイン
  11. あの娘におせっかい
  12. トリート・ハー・ジェントリー ~ ロンリー・オールド・ピープル
  13. クロスロードのテーマ

ディスク:2
  1. ジュニアズ・ファーム
  2. サリー・G
  3. エロイズ
  4. ブリッジ・オン・ザ・リヴァー・スイート
  5. マイ・カーニヴァル
  6. ゴーイング・トゥ・ニューオリンズ(マイ・カーニヴァル) (Previously unreleased)
  7. ヘイ・ディドル (アーニー・ウィンフリー・ミックス) (Previously unreleased)
  8. レッツ・ラヴ (Previously unreleased)
  9. ソイリー (ワン・ハンド・クラッピングより)
  10. ベイビー・フェイス (ワン・ハンド・クラッピングより)
  11. ランチ・ボックス~オッド・ソックス
  12. 7月4日 (Previously unreleased)
  13. ロック・ショー (オールド・ヴァージョン) (Previously unreleased)
  14. ワインカラーの少女 (シングル・エディット)

ディスク:3
  1. 「マイ・カーニヴァル」レコーディング
  2. ボン・ヴォヤジュール
  3. ウイングス・アット・エルストリー
  4. ヴィーナス・アンド・マース TVコマーシャル

【ボーナストラック】
ジュニアズ・ファーム 『グレイテスト』収録のものはハイハットとキックが響いており、CD化の際に高音と低音を強調 していたようである。ここではエンディングのフェードアウトが緩やかで、最後のポールの溜息が生々しく大きめになっている。
ヘイ・ディドル(アーニー・ウィンフリー・ミックス) 『ラム』のボーナストラックに収録されたディクソン・バン・ウィンキー・ミックスとはミキシン グが異なり過ぎていて判別し辛い部分があるが、フィドルやスライドギターの追加以外に次のような変 更が行われている。イントロのギターはフェードアウトの有無や定位の違いはあるが同じものである。 まず2回繰り返されるコーラスでは、最初の方には新たなボーカルが追加されて2回ともWトラック ボーカルになっている。2回目のボーカルは変更されてない。続くAメロではポールとリンダのボーカ ルがいずれも差し替えられている。またボーカルと同じ位置に定位しているギターも差し替えられてい るので弾き語りされている可能性がある。続く53"からのコーラスは差し替えられて、1'8"から同じも のになる。1'35"からも一方のボーカルを差し替えている。
全体を通してみると、ポールがアコースティックギターを弾きながらリンダと歌った最初の音を録 音し直したという感じである。
サリー・G 『スピード・オブ・サウンド』(1989年盤)のボーナストラックだったが、何故か本作のボーナスト ラックとして収録されている。更に不思議なことに冒頭から右チャンネルのヒスノイズが大きめである。 本作の1989年盤では曲中のノイズ除去が行われていなかったことを考えるとオリジナルテープが劣化 したという可能性が高い。
1989年盤はベースが響いているがリマスターでは控えめになっている。その他、2"にセンター右 寄りで鳴っているシンバル風の音を除去、エンディングでギターのボディーを叩いた後のハムノイズを カットしている。
ウォーキング・イン・ザ・パーク・ウィズ・エロイズ 『スピード・オブ・サウンド』(1989年盤)のボーナストラックではキックの音の響きが強くなって いた。
ブリッジ・オン・ザ・リバー・スイート 『スピード・オブ・サウンド』(1989 年盤)のボーナストラックに比べると、(まだ極端ではないが) ヒスノイズが大きくなってきている。その他、1'13"(4拍目の3連の2番目の裏)にあるノイズを除 去している。2'26"(4拍目の3連の2番目と3番目)のベース音をかなりカット気味に抑えている。 フェードアウトが若干遅く、以前は聴こえなかったギターコードがセンターと左で鳴ってから消えていく。
マイ・カーニバル 曲中は1987年盤とほぼ同じであるが、リマスターは最初の1音の直前が(元テープが延びている かのように)間延びしている。
ランチ・ボックス / オッド・ソックス 1987年盤は全体を通してヒスノイズが大きめになっており、リマスターではかなり抑えている。
0'9"(4拍目裏)でセンターに入っているノイズ、1'28"(ブレイク部分)でピアノの直前にあるノイズを除去している。フェードアウトが若干遅めでスネアを連打する箇所まで聴こえる。
ワインカラーの少女(シングル・エディット) 本バージョンがオルガンから始まることからもアルバムバージョンの単純な短縮版でないことは容 易に推察できる。実際はライナーノーツに記載されている通り追加録音が行われている。アルバムバー ジョンは1974/11/5にアビー・ロード・スタジオでジェフ・エメリックが録音したものに、 1975/2/6にニュー・オーリンズでの追加録音が行われたものである。本バージョンでは更に、 1975/8/20にアビー・ロード・スタジオでアラン・パーソンズが追加録音とミキシングを担当してい る。
アラン・パーソンズによる作業(相違)は以下の通りとなる。イントロは同じ編成でスタートする がベースとドラムスは全編を通して入れ替えている。11"からの4小節に入っているギターリフの内、 右で演奏されているギターも新たに追加されたものである。その4小節目(19")の4拍目からアルバ ムバージョンの38"(4拍目)に相当する箇所をカットしている。これによりアルバムバージョンでは 10"(4拍目)に入っていた印象的なグリッサンドするベースは、バンド演奏開始の合図ではなく、 ボーカルへのガイドという役割に変更されている。ポールのリードボーカルは、アルバムバージョンで はかなり深いエコーが掛かっているが、ここではドライに近くコーラスを厚めにしている。以降この状 態が続き、アルバムバージョンの3'50"付近でフェードアウトしている。
【本編】 (概要)
今回で4回目のCD化となる。世代ごとの特徴は、初代1986年盤から1987年盤へは音量の増加 が主となっており、数値的には5割増しくらい音量が上がっている。6年後の1993年盤では、デジタ ル処理技術の進歩があり、音量は元に戻してダイナミックレンジ(音量差)を大きくすることに重点が 置かれている。つまり小さい音はより小さく、大きい音はより大きくしている。更にボーカルの破裂音 や摩擦音の修正といった処理も入るようになった。そして今回のリマスターではボーカル修正がより自 然な感じになり、細部のノイズ除去も行われるようになってきた。
1993年盤ではボーカル修正の影響が大きいため、以下は最もドライな状態と思われる1987年盤 を基準として相違をチェックしている。
ヴィーナス・アンド・マース 5"(イントロ2小節目2拍目)や30"(3拍目裏)のセンターにあるノイズを除去している。
リードギターの入る箇所(1'18")でテンポが変わるため次曲の開始位置と考えられているが(CD の区切りもそこになっている)特に編集跡は確認できない。実際にはベースが入るブリッジ部分(1'1") の直前に編集跡があることから、ブリッジ部分と「ロック・ショー」が連続してレコーディングされて いると推測できる。

ノイズの例(上が1987年盤、下がリマスター)
ロック・ショー ドラムスが始まって2小節目4拍目のキックが以前のバージョンとはタイミングにズレが生じてい る。ただし前述のデータ破損ではなく、リマスター時にアナログテープが劣化していたもの(後述)と 考えられる。
この直後の9"(ギターが上昇するフレーズ部分)の2小節目2拍目(D音のタイミング)でセン ターに入っているノイズを除去している。同様に2'24"(2拍目)のセンターに入っているノイズも除 去されているが、珍しいところでは、2'2"(2拍目裏)の左チャンネルで鳴っているハイハットがノイズ扱いで削除されている。この音は前後にも入っていることから、センターで演奏されていたドラムス の音が他のマイクに入り込んでしまっただけのものと思われる。何故この音だけが削除対象になったの か不明である。
コーダ開始すぐの4'30"辺りに編集ポイントがある(ピアノが始まって3小節目の1拍目裏)。これは ピアノの4小節目から音量が大きくなっているのを抑える修正のためと思われる。元々は次曲とクロス フェードさせる作業の際に音量差が生じていたのではないだろうか。

歌に愛をこめて 17"(2拍目)にセンターに入っているキックのようなノイズ、2'22"(3拍目裏から4拍目にかけて)の センターにあるノイズを除去している。
幸せのアンサー イントロ前のスタジオノイズ(ポールの咳払い)はタイミングがズレており、イントロ直前に編集跡 (今回のもの)が残っている。
23"(3拍目裏)の左チャンネル、28"(eternally)のタイミングでセンターに入っているノイズが 除去されていほか、同様の細かいノイズ除去が多数行われている。また、1'17"(1拍目)ではセンターか ら聴こえるスネアが削除されている。ちなみに1993年盤では23"のノイズは取れているが、28"のノ イズや1'17"のスネアは残っており、技術の進歩の様子が分かる。
磁石屋とチタン男 「ロック・ショー」でも見られたが、リマスターでは音の修正とは思えない目的不明の相違点が時 折確認できる。その分かり易い例がこの曲の2'32"である(波形図)。音の違いとして認識できる長さで はないが、以前のCDと同じ区間を比較すると中心から左側は下(リマスター)の方が幅が狭く、右側 は上(1987年盤)の方が幅が狭くなっている。つまり元のテープが伸びたり縮んだりとヨレた状態に なっていると思われる。40年前のアナログテープはそろそろ限界なのだろう。
全体的にはヒスノイズが軽減されているほか、フェードアウト直前に聴こえるギターのノイズが カットされて次曲が始まる。

ワインカラーの少女 19"(1拍目)で中央にあったノイズを除去しているほか、細かいノイズやギターの歪みがノイズに近 くなっている成分などを除去している。
ヴィーナス・アンド・マース (リプライズ) 45"(2拍目裏)の左で鳴っていたコンガが消されている。それに続くコンガの音がセンターで鳴って いることを考えるとミキシング時のミスだったのかも知れない。
遥か昔のエジプト精神 0.2"(コーラスの直前)に編集ポイントがあり、15"(4拍目裏)の右チャンネルにあるノイズ、 1'36"(4拍目裏)にある左チャンネルのノイズを除去している。また2'48"でセンターのハイハットの エコーが小さくなる箇所では一瞬だけ音が完全に消えてしまっている。
メディシン・ジャー 25"(2拍目裏)の右チャンネルにあるノイズを除去している。
コール・ミー・バック・アゲイン 10"(2拍目裏)の左右で鳴っているノイズを除去している。この音は右が本来の音で、左はそれを 30ミリ秒(ビートルズではお馴染みのADTを使う際の遅延時間)遅らせた音である。リードギターが 同じ遅延時間でミキシングされていることから、リードギターと共に録音されてしまったノイズがミキ シング時に左右に振り分けられてしまったようだ。
その他、1'19"(2拍目のスネアのタイミング)の右のハイハット、1'44"(1拍目)の左のハイ ハット(これは不要な音と思われる)、1'48"(1拍目)に右で鳴っているややタイミングの早いハイ ハットを削除している。
あの娘におせっかい 冒頭のセリフ部分のノイズを除去している。
トリート・ハー・ジェントリー / ロンリー・オールド・ピープル 2'03"(ボーカル直前)でセンター左寄りから聴こえる舌打ちのような音を除去している。
4'09"(1拍目)が次曲との編集ポイントになっている。
クロスロードのテーマ 55"のフェードアウトが遅くドラムスが最後まで響いている。
58"のセリフ直前に編集ポイントがあり、ここは曲とは別の録音と考えられる。リマスターでは最後 のテープレコーダーを停止させるような機械音部分が削除されている。
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