アルバム:
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Venus and Mars / Rock Show / Jet | 最初の歓声が1秒早く始まっていることから、旧CDのマスターデータを使ったのではなく、それより若い世代の音源が基になっていることが分かる。ただし、何度聴いてもポールがコーラスをつけているとしか思えない「ロック・ショー」であるが、別バージョンではないので確証は得られない。そして、左チャンネルからイントロのギターが始まるが、その直前に入っていたノイズを削除するところからリマスター作業が始まっている。
本作は全体的に破擦音の修正が多いので大きめなものを代表してピックアップすると、「ヴィーナス・アンド・マーズ」では1分03秒の"g(ood)"、「ロック・ショー」では1分55秒の"s(uit) ~ to sh(oot) ~ c(ity)"、「ジェット」では6分26秒に限らず"Jet"をシャウトする箇所がほとんど修正されている。 10分09秒からの異なる歓声が今回のリマスターの本質である。演奏終了の直後、センターでハイハットが鳴った後に電気系統のノイズが入っているが、この音は旧CDには入っていない。旧CDでは一旦フェードアウトさせてポールのMCに続いていたが、リマスター版ではこの音を含む歓声が追加され、ポールのMCまでの隙間を埋めているのである。
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Let Me Roll It (不要) |
2分47秒の2拍目裏、旧CDでは右チャンネルでギターが鳴った直後にプチノイズが入っている。リマスター版ではこの音が消されている。その他は歓声も含めて同じ。
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Spirits Of Ancient Egypt |
旧CDではポールの叫び声が終わった0分02秒で、極端に歓声が変化し如何にも「テープ編集しました」という感じだった。リマスター版では、0分01秒(ポールの叫び声の後半)に歓声を追加して、繋がったライブ演奏という雰囲気にしてある。
0分48秒の3拍目と0分49秒の2拍目(I'm yourの直前)のノイズが消されている。同様に1分57秒(3拍目裏)と演奏直後4分04秒にある機材ノイズが消されている。
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Medicine Jar (1A) |
波形図は編集開始点と編集終了点である。編集開始点はそのポイントから先が別の音(波形)となる位置、編集終了点はそのポイントから先が同じの音(波形)となる位置である。ここでも当然そのようになっているのだが、編集終了点には不可解な点がある。各波形図の上側はリマスター版でほぼ同じ位置であるが、下側の旧CDバージョンは0.02秒の間隔がある。それにも関わらず、同じ波形を繰り返しているのである。つまり、テープ編集による修正で部分的にダブりが生じたと考えられる。しかも、今回はその編集ポイントの繰り返しが無くなったことから、旧CDが編集されるより前のマスターテープが使われたことになる。
その修正内容であるが、リマスター版では最後のコードと共に大きな歓声が沸いて盛り上がった雰囲気を醸し出しているのに対し、旧CDでは少し遅れて静かめなミキシングとなっている。何の意図があったのかは不明だが、リマスター版の方がライブ感が増しているのは言うまでもない。
編集開始点(右側の音が違う) ![]() 編集終了点(上は同じ、下は0.02秒先) ![]() |
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Maybe I'm Amazed | 最初の編集はイントロのピアノの1音(2拍目の直前)で、左チャンネルの女の子の叫び声を含む歓声が追加されている。また意図的かどうか不明であるが、このピアノの1音目は音量が若干下がっており、フェードインしてくる感じになっている。
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Call Me Back Again (不要) |
ほぼ同じ。 | ||||||||||||||||||||||||
Lady Madonna | イントロ前にドラムをラフに叩いているが、その最中にピアノがスタートしている。
本来4小節目からピアノ以外の楽器が加わるため、リマスター版では1拍目に重なるキックの音を消している。
なお、今回、初めて収録されたビデオ映像では別バージョンのためエンディングを2度繰り返している。
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The Long And Winding Road (不要) |
ほぼ同じ。 | ||||||||||||||||||||||||
Live And Let Die (1B) (不要) |
0分30秒("die"のタイミング)で、右チャンネルに入っていたプチノイズを削除している。
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Picasso's Last Words |
元々、3枚組レコードの2枚目A面の1曲目であったため、フェードアウト~フェードインという編集になっていたが、ここでは歓声を途切れさせないで引き続き演奏をする編集になっている。ここでは前曲の歓声のフェードアウトを遅くし、イントロのフェードインをしないための再ミキシングを行っている。つまり部分的に差し替えを行っているのであるが、アナログテープ編集のような明らかな編集ポイントは無く、波形の目視確認では0分08秒のボーカルが始まる位置が差し替えポイントと推測される。その間の左チャンネルの単音のギターはやや小さめになり、中央のコードを弾いているギターはフェードインしない分だけ大きめになっている。
曲中では0分20秒の"bad"でマイクを吹く音、1分34秒~1分51秒(間奏でのセリフ)の摩擦音を修正している。
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Richard Cory | ボーカルの修正が多々あり、目立つところでは、0分52秒の"(every)p(lace)"で破裂音を修正、1分57秒の"(mu)ch"で破擦音を修正、2分31秒と2分34秒の"(wi)sh"で摩擦音を修正を行っている。
2分54秒(エンディングのギターコードが終わった直後)、センターに入っていたマイクを吹いたようなノイズが除去されている。
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Bluebird (不要) |
ほぼ同じ。 | ||||||||||||||||||||||||
I've Just Seen A Face |
コーラスの音域に配慮したのか、ビートルズのオリジナルよりキーが1音下がっている。この事から逆にビートルズでの演奏はカポタストを2フレットに付けていたことが分かる。
0分34秒、1分31秒、1分39秒といずれも"she keeps"が修正対象になっている。 エンディングは1分59秒から別の歓声を追加し、2分06秒から始まる「ブラックバード」の序奏部分に繋いでいる。この編集作業の結果、フェードアウトからフェードインとなっていた区間(2分06秒付近)が短くなっている。
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Blackbird (不要) |
ここでオベーションの12弦ギターから同6弦ギターに持ち替えるが、このギターは「イエスタデイ」用に1音下げチューニングされたものである。当然、この曲でも1音低いキーFでの演奏となっている。
0分13秒の"broken"、1分27秒と2分17秒の"waiting"でマイクを吹く音を修正している。
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Yesterday (2A) |
0分21秒("they're"のタイミング)で左チャンネルの歓声の中にあるノイズの削除をしている。
ボーカルの修正は多々あり、目立つところでは、0分15秒の"t(rouble)"、0分40秒の"sh(adow)"、0分52秒の"she"、1分18秒の"(su)ch"、1分21秒の"p(lay)"を修正している。 エンディング後の歓声はフェードアウトが3秒くらい遅くなっている。これは何かの効果を狙ったというよりも、2枚組CDの切り替わりによる致し方ない処置だろう。
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You Gave Me The Answer |
イントロ前に付けられている歓声が全く異なっている。旧CDは女性の声が目立っていたが、今回は男性の奇声が目立っている。これは追加されているものではなく差し替えられているので、アルバム用のマスターには含まれていなかったと推測される。
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Magneto And Titanium Man (不要) |
ほぼ同じ。 | ||||||||||||||||||||||||
Go Now (不要) |
3分29秒の"thank you"直後のマイクを吹く音を修正。
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My Love | カウントの"two"と"four"でマイクを吹く音を修正している。
ボーカル修正は軽微なもの多く、0分49秒の"s(omething)"、2分49秒の"(a)s(k)"、3分45秒の"to"で後半にやたらとマイクを吹いているのを修正している。 2分52秒(2拍目裏)では、センターにあるキック音を削除している。演奏の雰囲気的に不要と判断した可能性もあるが、他では化粧直し的な修正をしていないことから、"say"に反応した修正ミスと思われる。
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Listen To What The Man Said (2B) |
ボーカルはいずれも軽微なものだが、0分38秒の"s(oldier)"、1分13秒の"(tha)t's"等を修正している。
演奏終了後の3分23秒から3分30秒にかけて、旧CDではポールのMC部分に重なるキック音がセンターで3回聴こえるが、これらを全て削除している。
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Let 'Em In |
この曲も3枚組レコードでは1曲目(3枚目A面)であったため、イントロの最中に歓声がフェードインしていたが、それとは別に歓声(主に拍手)を追加して前曲と繋がった印象にしている。
ボーカル修正は軽微な摩擦音"s"に対するものばかりである。
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Time To Hide (不要) |
4分23秒(4拍目裏)、ベースでポールがお得意のスライド音を出した直後、右チャンネルに入っていたプチノイズを削除している。
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Silly Love Songs (不要) |
"you"と歌った次の小節の2拍目裏でピアノに重なってセンターから聴こえていたプチノイズを削除している。
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Beware My Love (3A) |
レコードでは3枚目A面ラストとなっていた関係と思われるが、演奏終了後の歓声が全く別のものになっている。最後のコードと共に最初に湧き上がる歓声は共通だが、これは1秒ほどでフェードアウトしていまう。これに重なるように加えられた歓声は旧CD版とリマスター版では異なっている。旧CD版ではドラムスやギターの残響音が鳴ってフェードアウトしていたが、リマスター版ではマイクを吹くようなノイズを含む歓声がフェードアウトしないまま次の曲が始まる。
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Letting Go |
前曲からの歓声はフェードインではなく、かつ長い間、イントロに重なっている。旧CD版ではかすかにイントロのに重なる程度である。
0分38秒の"she ta(stes)"、0分47秒の"she ~ sun"等、摩擦音"s"のボーカル修正が多数ある。
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Band On The Run | 演奏終了後の長い歓声を14秒ほど短縮している。単純に切り貼りするのではなく、最後に聞こえるアンコールを催促する手拍子を生かすため、5分17秒付近で歓声の前半と後半をクロスフェード(一方をフェードアウト、他方をフェードインさせながら重ねる手法)させている。
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Hi Hi Hi |
フェードインが若干早めになっているが、音の過不足は無い。
演奏終了直後の3分12秒に編集跡があり、リマスター版の方が僅かに短くなっているが、特にミックス違いは生じていない。従って、この編集跡は旧CD版の方が編集されているものと考えられる。つまり、以前はアナログテープからデジタル化した後に何らかの編集作業(例えば、後述のノイズ除去を試みた)をしていたが、今回はそのような切り貼りを必要としなかったのでオリジナルの長さになっているものと考えられる。 3分45秒、ギターがチューニングのために音を出した4音目、右チャンネルから聴こえていたノイズを削除している。
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Soily (3B) (不要) |
ほとんど分かりにくいが、4分7秒(3拍目)のキックが旧CD版では音が弱めなため、キック音を重ねて補強している。
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全体 | 最初に気になったのは、旧CDとは極性(数値化された値のプラス・マイナス値)が逆になっていること。スピーカーのコーン紙が逆方向に動くから、かつてのオーディオマニアなら「音が全く違う」と騒ぐ大問題であるが、実際には実害は無いと思う。出だしの歓声が若干早めなことからも、以前のCD化の際のデジタルデータではなく、その前のアナログテープから作業を始めたのだろう。
リマスターと言えば、破擦音の修正、ノイズ除去、音圧の修正、といった作業が主であった。もちろん、ここでもそれらの作業は行われている。ただ、今回の最大の特徴は、音を修正するだけのリマスターとは違い、”ライブ盤”というコンセプトを明確にするための修正が加えられていることである。 最初のリリースが3枚組レコードであったため、必然的に5箇所(A面とB面の区切りも含むため)のフェードアウト~フェードインを要していた。これを基にCD化されたため、所々に空いた間がライブ感を削いでしまう感は否めなかった。今回はこれらの隙間に新たな歓声を追加して連続性を出し、更にMC部分のノイズや無駄な音にも配慮している。これにより、リマスター版では最初から最後まで一連の演奏となってライブ会場に居る雰囲気を出している。 |