Paul McCartneyバージョン違い調査

アルバム:

リマスター版と旧CDバージョンとの相違を調査する。
ディスク:1
  1. 幸せのノック
  2. ザ・ノート・ユー・ネヴァー・ロウト
  3. 僕のベイビー
  4. 愛の証し
  5. ワイノ・ジュンコ
  6. 心のラヴ・ソング
  7. クック・オブ・ザ・ハウス
  8. やすらぎの時
  9. マスト・ドゥ・サムシング
  10. サン・フェリー・アン
  11. やさしい気持

ディスク:2
  1. 心のラヴ・ソング (デモ)
  2. 僕のベイビー (デモ)
  3. メッセージ・トゥ・ジョー
  4. 愛の証し (ジョン・ボーナム・ヴァージョン)
  5. マスト・ドゥ・サムシング (ポール・ヴァージョン)
  6. 幸せのノック (デモ)
  7. やさしい気持 (インストゥルメンタル・デモ)

ディスク:3
  1. 心のラヴ・ソング (ミュージック・ビデオ)
  2. ウイングス・オーヴァー・ウェンブリー
  3. ウイングス・イン・ベネチア

【ボーナストラック】
マスト・ドゥ・サムシング (ポール・バージョン) 本バージョンは1976/1/5に録音され、翌日にミキシングされている。リリースバージョン用に追 加録音があった事は書かれているが詳述されていない。ポールのインタビューでも同じカラオケを使用 したと窺わせる程度である。
実際のところはと言うと、両者のキー(速度)を合わせて比較するとアコースティックギター、 ベース、ドラムスが同じ演奏であることから、ポールの証言は容易に確認できる。更に、イントロのオ ルガンと後半のシンセサイザーが追加されているのは一聴して分かるので、ジョーのボーカル以外にも これらの演奏が追加されているのは明らかである。それ以外にも3'13"以降のギターコードの中で、左 チャンネルに入っている単音のエレキギター(リリースバージョンではセンター)が差し替えられてい る。
ジョーの歌詞はポールと異なる箇所がある他、エコーを掛けてアップテンポ気味に歌っている。リ リースバージョンより半音下でカラオケを録音しているが、ジョーのボーカルもそのスピード(半音下) で録音され、ミキシングの段階でスピードを上げたと思われる。
ミキシングに関する違いとしては、リリース版の右チャンネルで1'38"から入ってくるカウベル等 のパーカッションはボーカルに合わせるようにオンとオフを繰り返すというミックスになっているが、 ここでは最初から特別なフェーダー操作をすることなくミックスされている。また、2'10"過ぎからの エレキギターにはディレイを掛けている。更に、最後のギターコードもポールは直ぐにカッティングを 入れているのが確認できるが、リリースバージョンでは余韻部分をずらして重ねることによりコード音 を長く響かせている。
【本編】 (総論)
通常のリマスターとは異なり、修正が加わっている。オーバー・アメリカのツアー中でのレコー ディングということもあり、時間的な制約で心残りになっていた作業があったと推測される。
本作も複数回リリースされているが、1989年盤を比較対象としている。
幸せのノック 最初のベルに重なるスタジオ・ノイズを除去している。1989年盤ではイントロのスネアにエコー が掛かったように響いているが、リマスターでは抑えられている。以前はそのような効果を付け加えた が今回はしていないということだろう。
本リマスターの最大の特徴と言えるのが30"(4拍目から1拍目裏までの2拍分)のピアノ(を含む全 体)を別テイクに差し替えていることである。もはやリマスターではなく単なる編集である。違いは明 らかで、本来の演奏は音が弱かったためアタックの強い音に差し替えている。ボーカルの直前というこ とで拘りがあったのだろう。全パートが差し替えられていることから容易に推測できるが、差し替えの パートは他の箇所をコピーしたものである。30"(4拍目の表裏)は直前にある2拍目の表裏をコピーし ており、続く31"(1拍目の表裏)は37"(1拍目の表裏)をコピーしている。
その他、1'43"(Lutherの直前)のセンターのノイズと2'20"(3拍目裏)のセンターのノイズが 除去されている。また、5'03"(最後の2音の直前)に編集ポイントがありキックの音がディレイを掛けた ように強調されている。この作業は1989年盤でもリマスターでも行われているが、1989年盤の方が 強めの音が加えられている。

上が 1989 で、下がリマスター
ザ・ノート・ユー・ネヴァー・ロウト ボーカルは破裂音('b'、'p')の修正が多く行われている。
ノイズ除去の目立つものとしては、9"の左チャンネル、2'12"(ブレイク部分)のセンター、3'10" (ブレイク部分)のセンターで行われている。また、不要な演奏音として55"(2拍目)と3'35"(3 拍目と続く1拍目)にセンターから聴こえていたハイハットを削除している。
一方、バンドの演奏が加わる1'10"くらいまではヒスノイズの高周波成分が目立つようになった。 更に、1'1"(3拍目裏)のセンターにプチノイズが入っている。
僕のベイビー ボーカルの破裂音('p')の修正が多く行われている。2'42"("to"のタイミング)のセンターにある ノイズ、2'53"(1拍目裏)のセンターにある舌打ちを除去している。
愛の証し ボーカルの破擦音('s')の修正が多く行われている。5'19"(4拍目裏)のセンターにあるノイズを除 去している。また以前は6'22"(最後の音の直前)で編集してフェードアウトの調整をしていたようだ (初期のCDにはこのような作業が多く見られる)。
ワイノ・ジュンコ 1'21"(1拍目裏)のセンターにあるノイズ、3'56"(2拍目裏)のセンターにある割れた音(アコー スティックギターにディストーションを掛ける際のノイズと思われる)を除去している。
心のラヴ・ソング この曲はC-Em7-Fmaj7というコード進行を基本とした対位法(同じコードで異なるメロディーを 歌う)が用いられている。ポールによる対位法というと「アイヴ・ガッタ・フィーリング」が印象的で あるが、これはジョンがコード進行を変えてポールの曲に合わせていた。ここではボーナストラックに 収録されたデモから分かる通り、初期段階から意図した創りになっている。他にも「ロング・ヘアー ド・レディー」や「ワンダーラスト」でも使っている通り、お気に入りのアレンジ方法であることは容 易に推察できる。その中でも本曲は3つのメロディーを持ち、4小節に渡るベースリフも2種類用意さ れ、各々が充分にメロディアスであることを考慮すれば最も複雑な構成と言える。
それほど力が入っているだけにコードの響きは重要で、ピアノ演奏の一部が気になっていたと思わ れる。差し替えが行われてたのは5'42"(2拍目裏)で、半拍すべての演奏を直前の4拍目裏と差し替え ている。変更前後の違いは一聴しても分かりにくいが、(私の見解では)Fmaj7の構成音であるミの音 の響きが弱かったようだ。このコード進行では共通となる音だけにシッカリと響いている箇所を使った と推測している。
その他、イントロ最後の22"(4拍目裏)でハイハットが鳴っているのを消してベース音が際立つ ようにしている。5'52"(フェードアウト寸前)のノイズをカットするため少し早めにフェードアウト させている。
なお、『ヤァ!ブロード・ストリート』ではセルフカバーを行っており、敢えてベースは弾かないで ボーカリストに徹し、転調させた間奏(スティーブ・ルカサーがリードギター)を加えるという構成変 更を行っている。

上が 1989 で、下がリマスター
クック・オブ・ザ・ハウス 『ワイド・プレイリー』にも同じバージョンが収録されている。18"から始まるイントロ4小節では ギターのバックでハイハットが刻まれているが、調理中の効果音のノイズ除去の影響で消えている。
29"(4拍目裏)で"too"の破裂音が左右に広がっている音や、2'18"(最後のコードの直前)で左チャンネル から聴こえるノイズを除去している。
やすらぎの時 2'27"(1拍目裏)、2'36"(1拍目)、3'22"(4拍目裏)でセンターから聴こえるノイズを除去してい る。2'56"から始まるギターソロに重なるノイズをいくつか(分かり易いものは2'58"と3'6")除去し ている。
マスト・ドゥ・サムシング ボーカルの摩擦音('s')の修正が多く行われているほか、ボーナストラックにあるポール・バージョン や1989年盤には無かった編集が加えられている。
18"に編集ポイントがありイントロのオルガンと本編との隙間が狭まっている。更に、エンディングの ギターコードのタイミングに難点があったらしく、3'29"(最後のフレーズの直前)から3'31"(最後のフ レーズの4番目のギターコードの直前)を編集して、間伸びしている0.05秒ほどを詰めている。これら はテンポを上げて目立つようになったのが気になっていたと思われる。

上が 1989 で、下がリマスター
サン・フェリー・アン 1"("got a"の直後)でセンターから聴こえるマイクを吹く音の除去、1'20"の破裂音('p')を修正して いる。1989年盤では全体的にギターの高音弦とキックの響きが強調されている。
やさしい気持 32"の破裂音('b')や2'25"の摩擦音('tion')を修正しているほか、1'10"(2拍目)と1'29"(1 拍目裏)でセンターから聴こえるノイズを除去している。
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