Paul McCartneyバージョン違い調査

アルバム:

「リマスター」と言う言葉から「音が良くなった」と解釈する人は多い。しかし、実際には「マスタリングをやり直した」というだけなので音が良くなる保証はない。『パイプス・オブ・ピース』のリマスターが正にそれで、音が良くなったと感じるのは補正技術が向上した事に依る。 リマスターであるため本来は相違が生じていないはずであるが、何故かテープ編集した位置が分かる。30年以上経過しているためアナログテープを繋いで編集した位置が微妙に変化していると思われる。例として挙げている「パイプス・オブ・ピース」の波形画像では類似した波形でありながら幅が異なっており、テープが伸縮したかのようである。 また全体的に言えるのだが1983年版と比べてみると、まるでアナログ盤であるかのように高域が無くなっている(波形画像は「セイ・セイ・セイ」の0'05"近辺)。ドンシャリと呼ばれる高音と低音を強調した音が流行った時代ではあるが、それだけが理由ではなくテープ劣化の可能性も考えられる。
ディスク:1
  1. パイプス・オブ・ピース
  2. セイ・セイ・セイ
  3. もう一人の僕
  4. キープ・アンダー・カヴァー
  5. ソー・バッド
  6. ザ・マン
  7. スウィート・リトル・ショー
  8. アヴェレージ・パーソン
  9. ヘイ・ヘイ
  10. タッグ・オブ・ピース
  11. スルー・アワ・ラヴ(ただ愛に生きて)

ディスク:2
  1. アヴェレージ・パーソン (デモ) (Previously unreleased)
  2. キープ・アンダー・カヴァー (デモ) (Previously unreleased)
  3. スウィート・リトル・ショー (デモ) (Previously unreleased)
  4. イッツ・ノット・オン (デモ) (Previously unreleased)
  5. シンプル・アズ・ザット (デモ) (Previously unreleased)
  6. セイ・セイ・セイ (2015リミックス) (Previously unreleased new remix)
  7. コアラへの詩
  8. トゥワイス・イン・ア・ライフタイム
  9. クリスチャン・バップ (Previously unreleased)

ディスク:3
  1. パイプス・オブ・ピース (ミュージック・ビデオ)
  2. ソー・バッド (ミュージック・ビデオ)
  3. セイ・セイ・セイ (ミュージック・ビデオ)
  4. ヘイ・へイ・イン・モントセラト
  5. ビハインド・ザ・シーンズ・アット・エア・スタジオ
  6. ザ・マン

Pipes Of Peace 0'51"には導入部から次のメロディへのブリッジ部分でピアノが7/8拍子になる箇所があるが、これは元々4/4拍子として演奏されているものを最初の半拍だけカットしたらしい。編集方法は、導入部の最後の半拍の直前でカットし、ピアノの1拍目裏からボーカルが入るまでの1小節と3拍半分を抜き出して繋いでから元に戻したらしい。つまり編集箇所が3点あるはずである。 直後の"all"に重なるクラベスは音量(高音側の音質)を下げてボーカルの邪魔をしないようにしている。その他、ノイズ除去は多数行われており、比較的分かりやすいものでは2'07"に"of"のタイミングで右のハイハットに紛れていたノイズを消している。 エンディングも同様に編集跡(3'33"と3'41")が確認でき、以前に何かの調整を行ったであろう様子が窺える。
Say Say Say 0'23"の"aff(ection)"に付いていたノイズが取れてクリアになっている他、細かいノイズ除去が施されている。 2'35"の"hu hu hu"直前に編集跡があるが対応する終点の跡が近くには無く、3'24"(こちらも"hu hu hu"の直前)に編集跡があるので、この長い区間をエンディングとしてどうするかが編集対象になっていたと考えられる。更にその中に含まれる3'07"?3'08"(ベースのフィルイン1拍半の区間)も編集箇所となっており、このベースを重要なポイントとして編集が進められた様子が窺える。この編集ポイントの謎は後述するリミックス・バージョンで明らかになる。
リミックス

1'46"でポールが歌うBメロに行くかと思いきや、更に間奏が17秒続いてからマイケルの歌うBメロとなる通り、正規バージョンとは異なるロング・バージョンになっている。正規バージョンでは2'35"(ここでの2'51")からエンディングが始まるが、ここにはカットされたセクションが続いている。正規バージョンと同じハーモニカが登場するのは3'57"で、この部分を4'30"まで使い、5'02"のベースのフィルイン以降に繋いで5'45"辺りでフェードアウトする。ここでは更に1分以上も聴くことができる。 ビートルズ時代の高々8トラック録音とは違いモントセラトのAIRスタジオは24トラック録音の機材であったため、ピアノやドラムスに複数トラックを割り当ててもなお余裕があった(『ブロード・ストリート』の映像でも当時はピアノを低音側と高音側の2トラック録音にしているのが確認できる)。 ポールとマイケルのボーカルには各々2トラックを使い、一方を未使用のテイクとして残せていたようである。ここでは敢えて別バージョンを作るためにポールとマイケルのパートを入れ替えているが、更に未使用テイクの方のボーカルを使用している。同じテイクを使っているのはごく僅かで、0'25"のポールの"take take take"、1'05"のポールの"you you you ~ see you never"、2'15"のポールの"just look ~ drying"、2'21"のポールの"can never ~ loves you"、2'27"のポールの"pray pray everyday ~ I do"(マイケルが"everyday"と入れるコーラスはカット)だけである。
The Other Me プチノイズは多数除去されているが、0'44"の"play"では破裂音部分を修正し過ぎて"flay"に聴こえる。 ボーカルの息遣いを強調した曲であるためブレス音が意図的に残されているが、1'35"ではブレス音の直前にあった舌打ちを除去している。同様に2'25"、2'47"(これは完全ではない)の舌打ちも除去している。 3'12"にはギターの直前に編集跡が確認できるが、これは以前にエンディングの修正をした痕跡と思われる。
Keep Under The Cover 0'33"のストリングス前で編集され、リマスターの方が余韻が短く詰まっている。続くベースも1音だけ修正されており、こちらは若干タイミングを遅らせている。 2'22"では直前のピアノに対して"love I'm gonna ~"が詰まった感じで始まっていたためタイミングが遅らせて隙間を埋めている。 3'00"では、エンディング・コードの直前、パーカッションの最後の音を遅らせてタイミングを調整している。
So Bad 全体的に高域成分が弱まり柔らかい音になっている。また、3'05"では"love"のタイミングで鳴るキックの音量をやや小さめにしている。
The Man 2'39"(リードギターの最後の1音の前)と3'14"("just"の前)に編集跡があり、各編集跡ではリマスターの方が少し詰まっている。いずれも小節の区切り位置であることから、本来は「セイ・セイ・セイ」のような長い演奏であったものをショート・バージョンに編集する等の目的で以前にテープ編集されたポイントと考えられる。今回改めて編集したのではなく、アナログテープの結合部分の劣化を補修するような作業が加えられて長さが変化したものと推察される。
Sweetest Little Show 間奏の前後(1'26"と2'19")に編集跡がある。1'26"は間奏前の2拍目裏のコード音直前、2'19"は間奏最後のギター3音の内、2番目の音の直前となっている。この区間ではセンター右のガットギターがノイズ除去などのデジタル処理とは思えないくらい音量が変化している。1'48"では少し早く鳴り始めていた3音がカットされているが、ノイズ除去のような単純な除去ではなくフェードインしてメインの演奏の邪魔にならないように修正されている。その後にはセンター左のガットギターも含めたバランスが時折変化している。間奏だけリミックスされたか、以前の別リミックスが残っていて差し替えたのではないだろうか。 2'40"(エンディングの最後の1音)にも編集跡がある。こちらは次曲とのクロスフェード作業のもので、以前からある編集跡と思われる。
Average Person 前曲との編集位置はボーカル("look")が始まる直前になっている事が確認できるが、編集の誤差はほとんど無い事から今回の編集作業ではなく以前に行われた跡と考えられる。 その"look"のタイミングで、センターで鳴っていたキック(低域の周波数)が左右からも聴こえるように追加されており迫力を増している。同様に0'14"のスネアも左右から聴こえるように追加されている。このスネアは他の音が重なってないため、より明瞭にコピーされている。
Hey Hey スタンリー・クラークをフィーチャーしたリズミックな曲であるが、根底には「バースデー」があるようにも感じられる。以前は音量のピークを大きめにしてコンプレッサーで抑えていた感じ(CDの最大音量の77%を上限とする)であるが、リマスターではピークを抑えることなく音圧とダイナミックレンジを稼ぐようなデジタル処理が施されている。 2'03"(2拍目裏のスネアの直前)、2'12"(1拍目裏のリフの開始位置)、2'19"(1拍目のスネアの直前)にテープ編集の跡が確認できるが、これは特に音の相違が無いため以前の作業跡と思われる。 主な修正は2'29"のブレイク部分でセンターに入っていたノイズを除去した程度である。
Tug Of Peace 「タッグ・オブ・ウォー」のイントロと同じかと思いきや、お経のような(ジョンが「トゥモロー・ネバー・ノウズ」で使いたかったような)声が加わってくるSEでスタートする。このSEとのクロスフェード作業の編集跡が0'41"(リフが始まる1拍前のキックの直前)にある。特に大きな跡では無い事から以前の作業跡と考えられる。 2'30"のブレイク部分で、シンセサイザーの直前に鳴るセンターのキックの音が強めになっている。
Through Our Love 本編では1'56"("mine"の直後の4拍目裏)にセンターで鳴っていた金属音を除去している。 しかし最大の注目ポイントはイントロのストリングスが少し長くなっている点である。このストリングスはアドリブで演奏されているのではなく、モールス信号を使った秘密のメッセージを表現している。モールス信号とは短い音(・)と長い音(-)を幾つか組み合わせてアルファベットを表す通信用の符号で、ここでは短い音をスタッカートで、長い音をテヌートで表現している。本来ならP(・--・)E(・)A(・-)C(-・-・)E(・)となっているはずだったが、今まではPが途中からフェードインしていたためにN(-・)になっていた(波形画像参照)。つまり秘密のメッセージがNEACEとなっていたのである。今回、最初の部分から収録されたことで、世界が最も必要としているPEACEというメッセージを発信することができた。
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